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千葉医学雑誌

千葉医学雑誌一覧
 
千葉医学 73 (1) :1-51, 1997

総説
抗原提示細胞 -外なる自己-非自己認識と内なる自己-非自己認識-
 矢野明彦
 
講座
台所の生化学:その6,食品中のプリンの化合物について
 三浦義彰 斉田直美 橋本洋子
 
原著
マクロファージ泡沫化過程における細胞内脂質転送蛋白(Sterol Carrier Protein 2: SCP2)の発現調節機構
 時永耕太郎

扁桃核キンドリングモデルの大脳皮質におけるNMDA受容体サブユニットmRNA発現の変化
 菊池周一 岩佐博人 佐藤甫夫

話題
千葉大学の医学古書と眼科史
  千葉彌幸

海外だより
チカーノたちがトルチーヤを食ぺながら笑い語らう町アリゾナ州ツーソンより
  小穴慎二

学会
第934回千葉医学会例会,第3回千葉泌尿器科同門会学術集会
第10回千葉県重症患者管理研究会(旧千葉県MOF研究会)

編集後記

 
   
  抗原提示細胞 -外なる自己-非自己認識と内なる自己-非自己認識-
矢野明彦  千葉大学医学部寄生虫学講座


 免疫応答さらには生体の恒常性維持にT細胞は機能しているが、このT細胞の活性化に必須不可欠の役割を演じる抗原提示細胞の抗原提示機序について概説した。抗原提示機能発現におけるキー分子として主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子がある。抗原提示細胞によって処理されたペプチト抗原分子(T細胞エピトープ)は抗原提示細胞のMHCと複合体を形成し、抗原提示細胞膜上へ転送、発現される。一方、抗原提示細胞内における抗原処理機序にはタンパク分解酵素とシャペロンがT細胞エピトープの規定に重要な役割を演じている可能性がある。T細胞に対する抗原提示細胞の抗原提示と共に、抗原提示細胞内に存在すると思われる自己-非自己認識機構と抗原提示機能を統御することによるさまざまな疾患の治療法の開発への夢を述べた。
 
   
  台所の生化学:その6,食品中のプリンの化合物について
三浦義彰 斉田直美1) 橋本洋子2) 千葉大学名誉教授 1)佐々木研究所附属杏雲堂医院 2)フリー管理栄養士


食品中のプリン化合物は腸壁を通過できないという説と、少しは通過出来るという説とある。もし前者の説が正しければ、高尿酸血症の人にプリンの少ない食事を勧めても意味は少ない。著者等の試算によると体内の核酸の異化によって生じる尿酸は1日僅かl70mg位で、尿中の尿酸排出量に満たない。普通の食事から生じる尿酸は1日600mgであるから、両者の和が体内の尿酸プール(l200mg)の大部分を形成し、プール中から600mgほどが尿に尿酸として排出されているのではなかろうか。また食事にRNAを4g 添加して、食事中のプリン量を増してみると、正常人は尿内に尿酸の排出が増えるが、痛風患者では尿への尿酸の排出はさして増えずに、体内にプリン化合物を蓄積する傾向がみられる。それゆえ、高尿酸血症のある人はやはりプリンの多い食事はなるべく控えた方がよい。
 
   
  マクロファージ泡沫化過程における細胞内脂質転送蛋白(Sterol Carrier Protein 2: SCP2)の発現調節機構
時永耕太郎  千葉大学医学部内科学第二講座


 初期動脈硬化病巣においてはマクロファージが変性 low density lipoprotein (LDL) を取り込んで泡沫細胞となる過程が重要と考えられている。コレステロールの細胞内輪送・代謝に関与する最も有力な細胞内脂質転送蛋白と考えられているsterol carrier protein 2(SCP2)は変性LDLの取り込みに伴いマクロファージが泡沫化する過程においてその含量が増加する事が明らかにされている。今回、マクロファージ泡沫細胞形成過程におけるSCP2の遺伝子発現とその調節機構について検討を行った。まず変性LDLであるAcetylated‐LDL(Ac-LDL)によりマクロファージが泡沫化しSCP2含量の増加ずる際、mRNAレベルの変動をNorthern blot法で解析したところSCP2のmRNAの増加が認められた。次にこのSCP2の遺伝子発現が増強する機序について検討した。acyl‐CoA:cholesterol acyltransferase(ACAT)阻害剤であるEAB‐309の添加によりAc-LDLによるマクロファージ中コレステロールエステルの増加は著明に抑制され、遊離コレステロールは増加した。その際、この細胞中のSCP2含量とmRNAレベルの増加が認められた。さらに、この増加が細胞内遊離コレステロールの増加によるものかどうかを調べる目的で25-OH cholesterolを添加したところSCP2含量、mRNAレペルは増加した。しかし、Ac-LDLによるSCP2増加がAc-LDLがマクロファージのスカペンジャー受容体を介したシグナルによるものかどうかを明らかにするためのmaleylated bovine serum albumin(Mal‐BSA)の添加は影響を与えなかった。これらの成績からAc-LDLによるマクロファージの泡沫細胞形成過程におけるSCP2の増加はその遺伝子発現の増強によること、その発現増強した機序としてスカベンジャー受容体からのシグナルよりも細胞内遊離コレステロールの増加が重要であることが明らかとなった。SCP2の泡沫細胞形成における重要性を示唆し、動脈硬化の脂質沈着過程の病因解明上重要な知見と考えられた。
 
   
  扁桃核キンドリングモデルの大脳皮質におけるNMDA受容体サブユニットmRNA発現の変化
菊池周一 岩佐博人 佐藤甫夫  千葉大学医学部精神医学講座


興奮性アミノ酸受容体、特にNMDA受容体を介する神経伝達はてんかんの病態の種々の側面において重要な役割を果たしていることが知られている。しかし、てんかん原性獲得機構においてNMDA受容体の分子生物学的メカニズムについては未だ詳細が不明である。本研究ではてんかん原性獲得過程および発作発現機構におけるNMDA受容体の意義を解明するために、キンドリングてんかんモデルを用いて大脳皮質における各サブユニットのmRNA発現の変化を検索した。Sprague‐Dawley ratを用い左扁桃核にて電気キンドリングを行い、後発射が3回出現した後24時間の時点(PK群)および全般発作が連続l0回出現した後24時間(FK群)の各時点において大脳皮質におけるNMDA受容体各サブユニット(NMDARl,2A‐2D)mRNA発現の変動を、ノーザンブロット法を用いて分析した。その結果、NMDARlは4.2kbおよび4.4kb、2Aはl2kb、2Bはl5kb、2Cは6.0kb付近に明瞭なバンドが検出された。2Dはいずれの群においても検出されなかった。PK群はRacineの発作発展段階のclass l‐2の部分発作を呈した。PK群の大脳皮質においてNMDARl mRNA発現は刺激側(22.8±5.8%,P<0.05)のみならず非刺激側(29.4±8.8%,P<0.05)においても有意な増大が認められた。また全般発作を呈したFK群の大脳皮質においても両側でNMDARl mRNA発現の著明な増大が認められた(刺激側、43.0±l8.8%,P<0.05、非刺激側、37.3±l5.5%,P<0.05)。NMDAR2A‐2D mRNA発現はPK群およびFK群のいずれにおいても有意な変動を認めなかった。以上の結果から、発作発展段階および全般発作発現後においてNMDARl mRNA発現の増大が認められたことは、NMDARl蛋白質の発現がup‐regulationされている可能性を示唆しており、キンドリング現象における発作発現およびてんかん原性獲得の各機構において大脳皮質のNMDA受容体を介する神経伝達の変化が重要な意義を有していると考えられた。特にNMDARlはサブユニットの中でも受容体の機能調節に最も重要なサブユニットと考えられており、その発現の変化はキンドリング脳におけるシナプス伝達や細胞応答に多大な影響を及ぽすことが予想された。
 
   
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