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千葉医学雑誌

千葉医学雑誌一覧
 
千葉医学 74 (4) :243-335, 1998

総説
HIV感染症:最近の進歩
 岡 慎一
 
原著

大腸腺腫の形態学的特徴とKi−ras遺伝子点突然変異の関連について
 石島秀紀

肝内胆管癌切除例の画像診断学的特徴についての検討
 天野穂高

胆管癌術前進展度診断における胆管腔内超音波法(IDUS)の有用性の検討:3次元表示IDUSの有用性を含めて
 一瀬雅典

消化管癌内視鏡的蛍光診断における基礎的研究:癌固有蛍光の観察及び物質の同定
 二宮栄一郎

肝阻血再灌流障害に対する内因性及び外因性ラジカルスカベンジャーの効果
 所 義治 浅野武秀 剣持 敬 中郡聡夫 貝沼 修 神宮和彦 松井芳文 磯野可一

小児呼吸器感染症由来インフルエンザ菌の臨床細菌学的検討
 杉岡竜也

急性骨髄性白血病細胞におけるc-kit/SCF発現とその意義
 趙 龍桓

海外だより
フィラデルフィア便り
 牧野康彦

学会
第17回千葉カルシウム代謝研究会
第955回千葉医学会例会、第18回歯科口腔外科例会
第965回千葉医学会例会、第1内科教室同門会例会

編集後記

 
   
  HIV感染症:最近の進歩
岡 慎一 国立国際医療センター エイズ治療研究開発センター 臨床研究開発部


米国における25歳から45歳までの死亡原因の第一位は、1993年以降エイズになり以後も増え続けている。しかし、この病気の感染から発病までの潜伏期は平均的に13年といわれており、1993年の死亡者は、1981年頃に感染したことになる。1981年といえば米国においてまさにエイズ第1号が報告された年であり、決して現在のこの姿が予見されていたわけではない。この疫学的事実が、実はこの病気の最も恐ろしいところである。しかし、近年この病気の病態が明らかになってきたことと、抗HIV薬が次々に開発されてきたことから、先進国においては治療環境は格段の進歩を見せている。これらの国においては、慢性病としてかなり長期にわたりコントロール可能な病気になりつつある。しかし、低開発国におけるこの病気のコントロールのためにはワクチン開発が重要である。
 
   
  大腸腺腫の形態学的特徴とKi−ras遺伝子点突然変異の関連について
石島秀紀 千葉大学医学部外科学第二講座


大腸癌の発生に関しては、adenoma−carcinoma sequence説とde novo説があり、いまだ結論は得られていない。又これに対し、遺伝子変化からみた大腸癌多段階発癌モデルは、adenoma-carcinoma sequence説に基づき詳細に研究されている。そのなかでKi-ras geneは、腺腫の増大や異型度増加に重要な役割を果たすと考えられている。今回腺腫の肉眼所見や大きさ・異型度に表面微細構造(pit pattern)を加えた形態学的特徴と、Ki-ras gene codon 12の点突然変異の関連につき検討をした。大腸腺腫27病変のうち、変異の検出されたのは11病変(40.7%)であり、大きさが5 mmをこえるものは、5 mm以下のものに比し有意に(P<0.05)、変異検出率が高かった。さらに、有意差はないものの、中等度・高度異型群の方が軽度異型群よりも、また隆起型のほうが表面型よりも変異検出率が高かった。工藤らの分類によるpit patternについては、隆起型に比して表面型に正常より小さいVs型pitが多くみられた(P<O.01)。これらのうちKi−ras変異が検出されたものは、すべてVL、W型のpit patternを示すものであり、肉眼型とpit patternを診断することは、Ki-rasras geneの点突然変異の有無を推測するうえで有用なことと思われた。adenoma−carcinoma sequence説に基づけば、VL,W型のpit patternを示すものが、多段階発癌モデルのなかで重要な位置をしめており、より注意すべき病変になるものと思われた。
 
   
  肝内胆管癌切除例の画像診断学的特徴についての検討
天野穂高 帝京大学医学部第一外科


切除された肝内胆管癌40例を腫瘍の肉眼型によりT型:腫瘤形成型、U型:腫瘤形成・胆管浸潤型、V型:胆管浸潤型、W型:胆管内発育型の4型に分類し、各々の画像診断における特徴について検討した。T型は8例、U型は20例、V型は9例、W型は3例であった。血管造影では腫瘍濃染像をそれぞれ88%、20%、O%、33%に認めた。腫瘍辺縁の濃染像が一般的であったが、T型の一部で肝細胞癌との鑑別が困難な症例を認めた。血管造影での門脈浸潤診断成績は、accuracy rate 82%であった。Dynamic computed tomography(D-CT)では、早期相でのリング状の高吸収域および後期相での造影傾向が特徴的であり、肝細胞癌との鑑別は比較的容易であると考えられた。D-CTでの門脈浸潤診断は、accuracy rate 91%であった。門脈浸潤によるattenuation difference を伴った場合、D-CTでは腫瘍の範囲が不明瞭となり、腫瘍描出に影響を与えた。Magnetic resonance imaging(MRI)は、腫瘍と肝臓とのコントラストが明瞭な症例が多く、腫瘍描出についてD-CTと比較すると、T型では同等であったが、U型では55%、V型では75%の症例においてMRIがまさっていた。画像診断における肝動脈、門脈、胆管浸潤所見と病理所見でのリンパ節転移を比較すると、全ての因子に浸潤所見を認めない症例では14%、1因子では36%、2因子以上では78%にリンパ節転移を認め、グリソン鞘の浸潤程度とリンパ節転移に関連を認めた。肝内胆管癌を4型に分類し検討したが、画像所見、進展様式はそれぞれの形態による特徴を認め、肉眼的にも画像診断的にも有用な分類と考えられた。また、腫瘍の形態、進展様式に応じた適切な画像診断を施行することにより、より合理的で正確な進展度診断が可能になると考えられ外科治療成績向上に重要と考えられた。
 
   
  胆管癌術前進展度診断における胆管腔内超音波法(IDUS)の有用性の検討:3次元表示IDUSの有用性を含めて
一瀬雅典 千葉大学医学部外科学第二講座


胆管癌の術前進展度診断における2次元表示胆管腔内超音波法(2D-IDUS)の有用性について検討するとともに、新たに開発されつつある3次元表示胆管腔内超音波法(3D-IDUS)の有用性についても言及した。基礎的検討では、IDUSにより胆管および周囲構造の詳細な連続観察が可能なこと、IDUSで胆管壁の主体として観察される中間低エコー層が主に線維筋層と外膜層に対応し、腫瘍はこの低エコー層の肥厚として観察されることを確認した。胆管癌臨床例における検討では、胆管横断面方向の進展(垂直進展)の診断として、膵外胆管では腫瘍エコーの外縁形状を基準として癌浸潤が外膜層を越えるか否かの壁深達度診断が可能(正診率93.3%)であり、膵内胆管では外側高エコーの断裂の有無から膵浸潤診断が可能(正診率92.3%)であった。また大血管浸潤は腫瘍エコーと胆管壁の接触状態を基準として浸潤の有無が正診率100%で診断可能であった。これに対し胆管長軸方向の進展(水平進展)の診断は2D画像では客観的表現が困難であり、表層・壁内進展の描出が不十分で正診率は62.5%であった。したがって2D-IDUSは胆管癌の垂直進展の診断に有用性が高いものと考えられた。一方、3D-IDUSは2Dでは表現困難であった胆管長軸方向の変化をより明瞭かつ立体的に捉えることができ、水平進展の診断における有用性が期待された。IDUSは胆管癌垂直進展の評価に有用性が高く、3D-IDUSの導入によりさらに水平進展を含めた胆管癌の術前進展度診断法として有用性が増すものと考えられた。
 
   
  消化管癌内視鏡的蛍光診断における基礎的研究:癌固有蛍光の観察及び物質の同定
二宮栄一郎 千葉大学医学部外科学第二講座


近年、蛍光物質であるヘマトポルフィリン誘導体が癌組織に親和性を示す性質を利用し、これを体内へ投与することにより診断及び治療を行う研究が進められている。これに対し、1980年福富らは、癌組織自体に固有の蛍光が存在することを報告し、以降癌固育蛍光に関する研究も諸家により報告されるようになった。本研究では、消化器癌における固有蛍光を観察し、その存在を明らかにするとともに、蛍光物質を検出同定し、経内視鏡的診断法への応用の可能性を考察した。対象は外科的に切除された消化器癌(食道癌、胃癌)新鮮摘出標本39例、方法は蛍光観察システムとして、励起光源にアルゴンレーザーPRT100、蛍光検出装置に臓器反射スペクトル分析装置TS200を改良し使用した。蛍光観察はカットフィルターを用い肉眼で行った。判定は肉眼で赤色蛍光を認め、かっ蛍光波長を検出できたものを蛍光(十)とした。蛍光物質同定は、組織抽出液をHPLCにて測定、検出した。蛍光は癌組織に散在性に見られ、切片においても深部癌組織に蛍光が観察された。波長測定では630nm,690nmにピークを認め、ポルフィリンの波長と一致した。蛍光は39例中28例の癌組織に認められ、正常組織には認められなかった。蛍光物質検出の結果、蛍光部にプロトポルフィリンが蓄積していることがわかった。ポルフィリンの蛍光を観察するためには、励起光源として、励起効率の良い紫外光を用いるほうが望ましい。紫外線光源を用い蛍光観察を行ったところ、内視鏡下に明瞭に固有蛍光が観察された。以上の結果から、今後観察システムを確立することにより、癌蛍光診断への応用が可能となることが示唆された。
 
   
  肝阻血再灌流障害に対する内因性及び外因性ラジカルスカベンジャーの効果
所 義治 浅野武秀 剣持 敬 中郡聡夫 貝沼 修 神宮和彦 松井芳文 磯野可一 千葉大学医学部外科学第二講座


肝臓外科、肝移植後の際、問題となる肝阻血再灌流障害に活性酸素が関与していることが明らかになり、障害防御に各種radical scavengerの外的投与が試みられている。しかし、元来肝臓にはradical scavengerが抱負に存在する。そこで、内なる防御として内因性radica1scavengerの誘導を試みた。また外からの防御として、新しいradica1scavengerであるADFの外的投与を行い、内因性、外因性また肝実質細胞、非実質細胞の両面から阻血再灌流障害の軽減を試みた。実験には8週齢雄性Wistar系ラットを用いた。実験T(SODの誘導):β1−3glucan投与後経日的に肝臓SOD活性を測定した。実験U(阻血再灌流実験):60分阻血再灌流モデルを用い以下の群で実験を行った。A群:ADF100μgを阻血前・後に経静脈投与。B群:β1−3g1ucan 1mg投与。C群:β1−3g1ucan 1mg 隔日4回投与。D群:β1−3g1ucan1mgとADF併用群。E群:対照群。検討項目:血流再開後60分時の(a)肝組織血流量、(b)肝組織MDA量。(c)7日生存率。実験V(活性酸素産生能への影響):NBT再灌流法を用い、阻血再再灌流、β1−3glucan投与、ADF投与の影響を非阻血肝と比較した。実験T:β1-3g1ucan投与により肝組織SOD活性が上昇することを確認した。肝実質細胞、非実質細胞の何れにおいてもSODの上昇が認められた。実験U:A,B,C,D各群でE群に比較し、(a)血流再開後60分時の肝組織血流量を高く保持し、(b)肝組織MDA量を低く抑え、(c)7日生存率が改善した。実験V:阻血再再灌流により活性酸素産生能の充進を認めたが、β1−3g1ucan投与、ADF投与により類洞に発生した活性酸素を消去した。またβ1−3g1ucan投与は活性酸素産生能に影響を及ばさなかった。内因性のradical scavengerを誘導するという新しい方法、また新しいradical scavenger ADFの外的投与により阻血再再灌流障害を軽減する事が可能であった。
 
   
  小児呼吸器感染症由来インフルエンザ菌の臨床細菌学的検討
杉岡竜也 千葉大学医学部小児科学講座


 1995年および1996年の2年間の呼吸器感染症由来インフルエンザ菌について検討した。洗浄喀痰培養における本菌の分離頻度はエピソード別平均32.3%、症例別平均29.3%であり、常に最上位を占めていた。由来病名の確認された菌株の疾患分類による分離頻度は急性気管支炎→反復・遷延性気管支炎→慢性気管支炎の順で増加し、その結果は従来の報告を裏付けるものであった。過去5年間の生物型別の分布では、U型(35.4%)>V型(32.4%)>T型(16.4%)で、この3つの生物型で全体の84.2%を占めていた。感受性分布ではアンピシリン耐性菌(ABPC;MIC≧1.56μg/ml)が27.7%を占めていたが、β-L産生のアンピシリン耐性菌は11.8%に過ぎず、残りのβ-L非産生アンピシリン耐性菌(15.9%)が前回(1980−1991年)の中村らの報告の値(1.3%)と比べて著しく増加していた。この事実はインフルエンザ菌のβ-Lの変化を含めた、耐性機構の変容を示唆しており、今後の感受性の動向に注意しつつ適切な抗菌薬を選択することが重要だと考えられた。
 
   
  急性骨髄性白血病細胞におけるc-kit/SCF発現とその意義
趙 龍桓 千葉大学医学部内科学第二講座


レセプター型チロシンキナーゼであるc-kitとそのリガンドであるstem cell factor(SCF)は初期造血において重要な役割を果たしていることが知られている。c-kitとSCFの共発現がautocrine機序による腫瘍増殖に関与することがある種の腫瘍細胞において想定されているが、白血病細胞での報告は未だない。急性自血満(AML)の細胞を対象に、c-kitとSCFによるautocrine機序を介した細胞増殖ついて検討した。AML28症例の白血病細胞を材料にc-kitとSCFのspecific primerを用いたRT-PCR法によりmRNAの発現を検討し、flow cytometry(FCM)によりc-kitおよびSCFの細胞表面への発現を検討した。全例でc-kit mRNAの発現を認め、28症例中2例ではc-kitとSCFの共発現をmRNAレベルと細胞表面蛋白レベルで確認した。共発現例の白血病細胞は低濃度のfetal ca1f serum(FCS)添加で増殖し、SCF中和抗体の添加で増殖が阻害された。また共発現を示した症例の培養細胞上清中にSCFが検出された。以上の結果より、AMLの症例中にはc-kitとSCFが共発現する例があり、autocrine機序を介して白血病細胞の増殖に関与している可能性が示唆された。  
 
   
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