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千葉医学雑誌

千葉医学雑誌一覧
 
千葉医学 74 (5) :337-429, 1998

総説
接着分子CD44の構造と機能
 張ヶ谷健一
 
原著
ヒト食道癌における細胞周期制御遺伝子p21CIP1/WAF1、p16INK4aのmRNA発現に関する検討
 清水英一郎

重水希釈法による体脂肪量測定の実験的および臨床的研究
 宮澤幸正

胸部食道癌の集学的治療の研究: 3領域郭清例における補助療法の検討
 小出義雄

学童・思春期の上室性頻拍症に対する高周波カテーテルアブレーション療法の適応と問題点に関する検討
 立野 滋 寺井 勝 石川隆尉 伏島堅二 新美仁男

Protein Kinase C の活性化に及ぼすPhosphatidylserine の脂肪酸構成、特に不飽和度の影響
 内田大学

重症患者における間接熱量測定と安定同位元素を用いたエネルギー代謝測定
 田代亜彦 石躍 謙 山森秀夫 高木一也 中島伸之

哺乳類ポリコーム遺伝子群、M33、mel-18の複合欠失マウスにおける骨格異常と初期胚の発生異常について
 三枝正明

学会
第964回千葉医学会例会、第31回麻酔科例会
第967回千葉医学会整形外科例会

編集後記

 
   
  ヒト食道癌における細胞周期制御遺伝子p21CIP1/WAF1、p16INK4aのmRNA発現に関する検討
清水英一郎 千葉大学医学部外科学第二講座


近年、悪性腫瘍細胞における細胞周期異常が注目され、悪性細胞におけるサイクリン等の細胞周期関連遺伝子の検討が盛んに行われている。p21CIP1/WAF1、p16INK4aは、1993年、細胞周期制御遺伝子としてクローニングされ、免疫組織化学染色、遺伝子変異等の検討は行われているものの、食道癌臨床標本を用いたmRNAレベルでの検討の報告は数少ない。今回、千葉大学第二外科において切除された食道癌臨床標本を用い、p21CIP1/WAF1、p16INK4a遺伝子のmRNA発現につき以下の如くの検討を行った。  対象と方法:対象は食道癌 24例であり、そのうち11例に対してp21CIP1/WAF1、p16INK4a遺伝子のmRNA発現を検討した。食道癌24例それぞれの新鮮切除標本より、癌部、非癌部別々にCsCl-超遠心法にてRNAを抽出し、CIP1cDNA、p16cDNAをProbeとしてNothern blot hybridization を行い、p21CIP1/WAF1、p16INK4a mRNA発現を癌部、非癌部で比較検討した。  成績:食道癌組織においてp21CIP1/WAF1mRNAの発現は11例中6例(54.5%)において、非癌部に比較し、癌部における明らかな低下が見られた。p16INK4amRNA発現は14例中10例(71.4%)において、非癌部に比較し癌部において同程度、もしくは軽度の発現減弱が見られるものの、残る4例(28.6%)では逆に癌部における大幅な発現上昇が見られた。  考察:食道癌組織においては、細胞周期異常の要因としてp53遺伝子からp21CIP1/WAF1、TGF-βからp16INK4a以外の経路の存在が示唆された。さらにp16INK4a mRNAの異常高発現が見られたことにより、これらの症例ではp16INK4a遺伝子変異の存在が示唆された。
 
   
  重水希釈法による体脂肪量測定の実験的および臨床的研究
宮澤幸正 千葉大学医学部外科学第二講座


本研究の目的は重水希釈法による体脂肪量測定法の確立である。実験群として高脂肪食ラット、普通食ラット、遺伝性肥満ラットであるZuckerラット及びそのヘテロ接合体であるLeanラットを用いた。この4群において、重水希釈法による体水分量の測定と、クロロホルムメタノール法による体脂肪量の測定を行い比較検討した。重水濃度測定は白金触媒を用いたガスクロマトグラフィー法にて行った。Zuckerラット、高脂肪食ラット、普通食ラットにおいて体重には有意差を認めなかったが、体脂肪率は有意に異なっている事が確認された。ところが、重水希釈法による体水分量と、直接法による除脂肪体重の比は4群でほぼ等しく、有意差を認めなかった。またすべての検体での除脂肪体重と体水分量の関係はr=0.89との高い相関係数にて有意に相関しており、回帰直線はy=0.729xと求められ、体水分量は除脂肪体重の72.9%を占めると結諭づけられた。従って、肥満においても、正常体重者と同様に童水希釈法により体脂肪量が求められることが判明した。次に、重水希釈法による体脂肪量測定を臨床検体にて行い、重症肥満患者22例において、同一体重、同一肥満度、同一BMIで異なる体脂肪量、体脂肪率を持つ症例について、重水希釈法による体脂肪量の測定の有用性を検証し、肥満の評価の為の体脂肪量測定の必要性を明らかにした。
 
   
  胸部食道癌の集学的治療の研究: 3領域郭清例における補助療法の検討
小出義雄 千葉大学医学部外科学第二講座


胸部食道癌に対する集学的治療の成績向上を目的として、3領域郭清の治療成績の評価、補助療法としての放射線治療および化学療法の評価をretrospectiveに行い、3領域郭清例に対する補助化学療法の適応の検討を行った。3領域郭清184例の手術直接死亡率は2.7%、最近5年間では1.8%であり、手術適応を慎重に行うことによりほぼ安全に施行し得る術式であると思われた。遠隔成績では、各進行度において従来の2領域郭清に比べ有意の向上がみられた。また従来の2領域郭清において有用性が示された補助療法としての術前照射または術後照射は、3領域郭清では遠隔成績向上に貢献していなかった。治癒切除不能例62例を対象とするneoadjuvant chemotherapy(5-FU持続静注+CDDP:FP)またはneoadjuvant chemotherapy(放射線治療同時併用FP:FPR)の奏効率は48.4%が得られたが、6.5%の治療関連死亡を認めた。一方、3領域郭清による手術単独治療では5年生存が得られていない2領域以上のリンパ節転移例、リンパ節転移個数5個以上の症例またはA3 (a3)症例81例においては、FPまたはFPRによる補助療法を行った15例の5年生存率は31.1%であり、補助療法を行わなかった42例の2.8%に比し、有意に良好であった。以上から、FPまたはFPRの奏効率および副作用を考慮し、3領域郭清単独では5年生存が得られない2領域以上のリンパ節転移例・リンパ節転移個数5個以上の症例およびA3 (a3)症例を対象としてlow-dose FPまたはFPRを行うことが望ましいと考えられた。
 
   
  学童・思春期の上室性頻拍症に対する高周波カテーテルアブレーション療法の適応と問題点に関する検討
立野 滋 寺井 勝 石川隆尉1) 伏島堅二1) 新美仁男 千葉大学医学部小児科学講座 1)千葉県立鶴舞病院循環器内科


高周波カテーテルアブレーション(RFCA)は、成人のほとんどの上室性頻拍症に対して確立した治療法となっている。低体重である小児においては、安全性の点から経験数が少なく、特に本邦ではまとまった報告を公表できる段階に至っていない。近年、小児用カテーテルの開発や、より良い高周波発生装置の開発に伴い症例報告も散見されてきている。本研究では、本邦における小児RFCA治療の普及に貢献すべく、我々のRFCAの適応症例や成績、合併症などの問題点を明らかにすることを目的とした。1994年11月より1997年9月までの間に体重20Kg以上の9歳より20歳(平均15.3歳)の上室性頻拍症17例に対してRFCAを施行し、その育効性および安全性、問題点を検討した。対象となった疾患は副伝導路を介する房窒回帰頻拍12例、房窒結節回帰頻拍2例、両者の合併が2例、稀有型心房粗動が1例であった。RFCAは心房粗動の1例を除いて成功した。平均通電回数は6.2回であった。1例で一過性の房窒ブロックが見られたが、重篤な合併症は1例もみられなかった。透視時間が平均85.6分と長く今後の課題であるが、RFCAは小児の上室性頻拍症に於いても成人と同様に有効かつ安全な非薬物療法で、生命に危険のあるAdams−Stokes発作を伴う場合や、薬剤抵抗性の場合は検討すべき治療法のひとつと考えられた。
 
   
  Protein Kinase C の活性化に及ぼすPhosphatidylserine の脂肪酸構成、特に不飽和度の影響
内田大学 千葉大学医学部内科学第二講座


 細胞膜リン脂質の脂肪酸構成は食餌や種々の病態において変化し、細胞の機能に大きな影響を与えることが知られているが、どのような作用機構を介しているかは不明である。そこで今回細胞膜リン脂質の脂肪酸構成の変化により細胞内伝達系がどのような修飾を受けうるかを明らかにする目的で、細胞内情報伝達系の中でも中心的な役割をはたしているprotein kinase C(PKC)に焦点をあてphosphatidylserine(PS)の脂肪酸構成、特に脂肪酸の不飽和度がPKCの活性化に及ぼす影響を解析した。ラット脳の可溶性画分よりPKCの3つの分子種(PKC-α、β、γ)を分離・精製した。PSの脂肪酸構成は、実際の生体の脂肪酸構成に準拠して、1位の脂肪酸をステアリン酸に固定し、2位の脂肪酸について不飽和度の異なる種々の合成PSを用意した。Triton X-100を用いたmixed micelles法にて種々の濃度のPSとdiacylglycero1(DG)を添加し、PKCの活性化に及ぼす影響を調べた。飽和脂肪酸のPSでは、いずれのPKC分子種もほとんど活性化されなかった。不飽和脂肪酸のうち、単価不飽和脂肪酸のPSは多価不飽和脂肪酸のPSに比べPKCの活性化が弱かった。多価不飽和脂肪酸のうち、エイコサペンタエン酸のPSは、PKC-βとγにおいて、PKCの活性化が他の多価不飽和脂肪酸のPSに比較し弱かった。これらの結果から、PKCの活性化調節のうえで2位の脂肪酸が重要であることが判明した。
 
   
  重症患者における間接熱量測定と安定同位元素を用いたエネルギー代謝測定
田代亜彦 石躍 謙 山森秀夫 高木一也 中島伸之  千葉大学医学部外科学第一講座


重症患者では糖、脂肪、蛋白などの代謝回転が亢進しているが、大量のグルコースが投与されて栄養管理が行われているため、エネルギー代謝を間接熱量測定だけで把握することは困難と考えられる。我々は、間接熱量測定と安定同位元素を用いたエネルギー代謝動態の測定法とを併用し、間接熱量測定の限界および安定同位元素による測定法の有用性を検討した。三領域リンパ節郭清を伴う右開胸開腹胸部食道全摘再建術を施行し、高カロリー輸液(TPN)管理した食道癌患者4例について、術前と術後3病日に、グルコース酸化速度を[U-13C]glucoseによるprimed constant infusion法により測定し、蛋白酸化量を尿中窒素排泄量から、脂肪酸化量を総CO2産生量からグルコース及び蛋白の酸化によるCO2産生量を除いて算出した。同時に間接熱量測定を施行した。また、エネルギー代謝の指標として血糖、血中FFA、及びケトン体のそれぞれの値を測定した。血中FFAとケトン体値はTPN管理にもかかわらず術後全例で上昇した。従って脂肪の動員と酸化充進が示唆された。間接熱量測定では、グルコースの酸化量が3例で増加しており、非蛋白呼吸商(npRQ)が3例で1.O以上を示し、脂肪は酸化よりも合成に傾いていた。しかし、安定同位元素による測定では、脂肪の酸化は全例で増加しており、グルコースの酸化は全例で抑制された。間接熱量測定では、脂肪が酸化されていても等量の脂肪がグルコースから合成されるとグルコースの酸化として算出されるためと思われた。安定同位元素を用いた測定法では、重症患者においてグルコースの酸化抑制と脂肪の酸化亢進があること、脂肪は酸化されている以上に合成され代謝回転が亢進していることが示唆された。以上、童症患者のエネルギー代謝の検討には、間接熱量測定法に安定同位元素法を併用することが必須であると考えられた。
 
   
  哺乳類ポリコーム遺伝子群、M33、mel-18の複合欠失マウスにおける骨格異常と初期胚の発生異常について
三枝正明 千葉大学医学部皮膚科学講座


ショウジョウパエポリコーム遺伝子群は、ホメオボックス遺伝子群の発現を抑制する過程に関与することにより、からだの前後軸の形成に童要な役割を果たしていることが知られている。また、前者の遺伝子群産物は核内で蛋白質複合体を形成して、様々な遺伝子座の転写制御に寄与している。脊椎動物においても、ポリコーム遺伝子群の相同遺伝子群が近年同定され、それらの遺伝子群産物はショウジョウバエの場合と同様に核内で会合する。それらの遺伝子欠失マウスではショウジョウバエで見られたような後方化が脊椎骨において確認された。本論文は哺乳類におけるポリコーム遺伝子群の相同遺伝子群であるM33とmel-18の二重欠失マウスの表現型を解析することにより、哺乳類におけるポリコーム遺伝子群の作用発現機序について検討した。その結果、@M33+/- mel-18-/-及びM33-/-mel-18+/-マウスはmel−18単独欠失及びM33単独欠失マウスより早期に死亡した。しかし骨格形成異常として脊椎骨の後方変異の強調は認められなかった。AM33-/-mel-18-/-二重欠失胎仔は胎生期に死亡することが明らかとなった。これらのマウスの解析結果より、哺乳類におけるポリコーム遺伝子群の相互作用は、からだの前後軸の形成に重要な役割を果たすこと、さらには発生過程並びに出生後の生命維持にも不可欠であることが示唆された。  
 
   
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