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千葉医学雑誌

千葉医学雑誌一覧
 
千葉医学 74 (6) :431-537, 1998

総説
食物アレルギー:食物のアレルゲン性について
 河野陽一
 
原著
食道癌における頸部・上縦隔リンパ節診断へのMRIの応用
 矢野嘉政
 
先天性心疾患における腎動脈血流速度パターン測定の臨床的意義
 田島和幸 寺井 勝 新美仁男

Phased Array Coilを用いたMRIによる大腸癌進行度診断の有用性
 中島光一

黄疸肝における虚血/再灌流時の病態とその対策
 岩崎好太郎 浅野武秀 所 義治 松井芳文 磯野可一

ビタミンD受容体の遺伝子多型と骨成長
 南谷幹史

アンドロゲン依存症, 非依存性腫瘍におけるビタミンD3誘導体の細胞増殖,アポトーシスに対する作用
 結城崇夫

前腕骨支持組織損傷による前腕部回旋不安定性に関する実験的研究
 六角智之 高橋和久 山縣正庸

千葉大学眼科における過去10年間の視神経疾患の統計
 佐藤公美 安達惠美子 藤本尚也 溝田 淳

特別寄稿
Osteopathyの医学教育: New England大学における医学生の教育
 Frank H. Willard, Jane E. Carreiro, Bruce Bates and Ahmmed Ally
石出猛史 赤坂 武 最上和夫(訳)
 
らいぶらりい
Principles of Oocyte and Embryo Donation
 伊藤 桂

研究報告書
平成9年度猪鼻奨学会研究補助金による研究報告書

学会
第968回千葉医学会例会・第2内科例会

編集後記

 
   
  食物アレルギー:食物のアレルゲン性について
河野陽一 千葉大学医学部小児科学講座


食物には、多種類のタンパク質が含まれているが、すべてのタンパク質が食物アレルゲンとして働くわけではない。そこで、既知の食物アレルゲンの物理化学的性状をまとめると、分子量は10−70kDaであり、加熱、酸、そしてタンパク加水分解酵素処理に耐性を示す傾向が認められる。また、IgE抗体あるいはT細胞が認識するアレルゲンのエピトープをみると、ミルクの主要アレルゲンであるαs1-カゼインに対するIgE抗体は、αs1-カゼインのC末端側のきわめて限局した部位に結合する。また、αs1-カゼイン特異的T細胞が認識する部位には、特徴のあるアミノ酸配列が認められた。これは、IgE抗体およびT細胞により特定のエピトープが認識される可能性を示しており、食物アレルゲンの構造解析から、食物のアレルゲン性低減化および食物アレルギーの冶療に新たな展開が期待される。
 
   
  食道癌における頸部・上縦隔リンパ節診断へのMRIの応用
矢野嘉政 千葉大学医学部外科学第二講座


食道癌42例に対し、以下の3通りの基準面を新たに設定してMRIを施行し、頚部・上縦隔のリンパ節診断における育用性について検討を行い、以下の結論を得た。 a)総頚動脈面:両側の総頚動脈を含む断面 b)気管一気管支面:気管と左右の気管支を含む断面 c)気管直交面:気管と直行する断面  リンパ節の部位同定では、境界となる構造物(総頚動脈、輸状軟骨、鎖骨下動脈、胸骨、気管、気管支、大動脈弓、奇静脈)が明瞭に描出され、食道癌取り扱い規約に基づくリンパ節の分類に有用であった。大きさ別リンパ節描出率は5mm未満では22.5%(274/1,218)、5mm以上10mm未満では70.0%(353/504)、10mm以上では80.1%(109/136)であった。部位別には、頚部食道傍リンパ節(101)、深頚リンパ節(102)、鎖骨上リンパ節(104)、胸部気管リンパ節(106)、気管分岐部リンパ節(107)が良好に描出された。EUS,Dynamic CTと比較して、本法(MRI)は頚部食道傍リンパ節(101)、鎖骨上リンパ節(104)、胸部気管リンパ節(106)、気管分岐部リンパ節(107)が育意に描出率が高く、転移リンパ節の描出能も優れていた。本法はリンパ節の大きさと部位を正確に把握でき、しかも手術の指標となる構造物との位置関係が明瞭に描出できるため、食道癌の術前頚部・上縦隔リンパ節診断に極めて育用であった。
 
   
  先天性心疾患における腎動脈血流速度パターン測定の臨床的意義
田島和幸 寺井 勝 新美仁男 千葉大学医学部小児科学講座


 先天性心疾患29例と正常対照27例の腎動脈血流速度を測定し、その血流速度パターンを定性的に4段階に分類した。先天性心疾患を動脈管の育無、肺血流の増減により4群に分けて検討した結果、動脈管を伴う肺血流増加群で明らかな尿量の減少を認め、腎動脈血流パターンが悪化していた。心疾患の治療により腎動脈血流パターンが改善した例では、尿量が増加した。動脈管を伴っていても肺血流が増加していない群では尿量の減少は認めず、腎血流パターンの悪化は軽度であった。動脈管を伴わない心疾患では、総動脈幹症の1例を除き全例、腎血流パターンは正常だった。ベッドサイドにおける腎動脈血流逮度のモニタリングは、新生児・乳児の重症心疾患患者の管理において、腎前性の血行動態を知る有用なひとつの方法と考えられた。
 
   
  Phased Array Coilを用いたMRIによる大腸癌進行度診断の有用性
中島光一  千葉大学医学部外科学第二講座


大腸癌切除例42例(S状結腸癌12例、直腸癌30例)を対象に、空間分解能の高いphased array coiIを用いたMRIによる、大腸癌進行度診断の有用性について検討した。撮像条件は、撮像面を腫瘍の部位における腸管直交面、及び腫瘍に垂直で腸管に平行な面とし、FOV(撮像視野)を16〜20cmと小さく、スキャン厚を2〜5mmと薄く設定、撮像法は小さい領域からでも良好なコントラストが得られるGd−DTPA造影(0.2mmol/kg静注)T1強調を用いた。標識を大腸粘膜下に注入した検討で、大腸壁像の内腔側の高信号層(第1層)は粘膜下層、外側の低信号層(第2層)は固有筋層に相当したことから、深達度の診断基準を、腫瘍による第1層の断裂がないものをM/SM、第1層の断裂をMP、第2層の断裂をSS/SE(A1/A2)、他臓器との境界が不整なものをSi(Ai)と設定すると、この基準により42例中39例(93%)で組織所見と一致する結果が得られた。リンパ節転移診断については、郭清を行った39例を腸管傍リンパ節領域に描出されたリンパ節の最大径で分類し検討すると、n1転移陽性率は最大径5mm未満または描出されないA群(21例)で14%、5mm以上10mm未満のB群(11例)で73%、10mm以上のC群(7例)で100%となった。また中枢方向n2以上または側方リンパ節の転移を有した症例9例はすべてC群かB群であり、腸管傍リンパ節像の最大径は、遠隔リンパ節転移にも相関していることが明らかとなった。大腸癌進行度診断において、phased array coi1を用いたMRIは、腫瘍近傍の詳細な撮像が可能であり、有用性が高い検査法であった。
 
   
  黄疸肝における虚血/再灌流時の病態とその対策
岩崎好太郎 浅野武秀 所 義治 松井芳文 磯野可一  千葉大学医学部外科学第二講座


閉塞性黄疸を合併する肝切除術においては、術後肝不全に難渋することも少なくない。そこでラット閉塞性黄疸肝モデルを用いて、手術の際問題となる、虚血再灌流障害の閉塞性黄疸肝における病態の解明とその対策について検討した。閉塞性黄疸肝モデルは、総胆管を結紮切離して作製した。経日的検討では、s-ALTは上昇し、肝蛋白合成能は低下した。肝組織SOD活性、肝組織MDA、活性酸素産性能は上昇した。60分肝虚血再灌流モデルでの検討では、閉塞性黄疸群の血流再開後90分の肝組織血流量は低下し、s-ALT、肝組織MDAは高値になった。閉塞性黄疸肝は蛋白合成能の低下、活性酸素による肝細胞膜障害が進行する状態であり、虚血再灌流障害においては、防御機能が低下していることが示唆された。そこで、所らの検討にて、肝虚血再灌流障害に有効であったβ1-3glucanを投与したところ、経日的検討では、肝組織MDAの上昇が抑えられ、虚血再灌流モデルでの検討でも、肝組織MDAが抑制された。β1-3glucanが閉塞性黄疸肝障害、閉塞性黄疸肝虚血再灌流障害を、ある程度軽減できる可能性が示唆された。
 
   
  ビタミンD受容体の遺伝子多型と骨成長
南谷幹史  千葉大学医学部小児科学講座


ビタミンDは骨芽細胞、破骨細胞、軟骨細胞の分化増殖を制御すると報告されている。VDR遺伝子エクソン2には転写開始点と考えうるATGが2つ存在し最初のATGに遺伝子多型が認められる。このエクソン2遺伝子多型の意義について検討した。対象は最終身長に達した18−20歳健常女性90名、13歳健常男女159名、身長が-1.5SD以下の24名。身長、骨密度、骨代謝マーカーを測定し、エクソン2遺伝子多型はPCE-SSCP法、PCR-RFLP法、PCR-direct sequence法により検討した。エクソン2のalleleの発現を検討するためheterozygoteの単核球よりRNAを抽出しRT-PCRを行い、SSCP法、RFLP法にて解析した。@エクソン2遺伝子多型の頻度はCC(ACG):37%、CT(ATG/ACG):51%、TT(ATG):12%(n=249)。A身長との関係:18-20歳女性、13歳男女では共にCTの身長はCC,CTに比し有意に高い。身長が-1.5SD以下の群ではCTの頻度が低い。B骨密度との関係:エクソン2遺伝子多型と腰椎骨密度との間に有意な関係はない。大腿骨頚部骨密度はCCがCT,TTに比し優位に低い。C骨代謝マーカーとの関係:血中iPTHはTTが18.1pg/mlと有意に低い。DRT-PCR-SSCP法によるエクソン2遺伝子多型heterozygoteの2本のalleleの発現の検討:ATGのバンドがACGのバンドの1.5−6倍強く認められた。以上よりVDRエクソン2遺伝子多型は身長を規定することが判明した。
 
   
  アンドロゲン依存症, 非依存性腫瘍におけるビタミンD3誘導体の細胞増殖,アポトーシスに対する作用
結城崇夫  千葉大学医学部泌尿器科学講座


前立腺に限局した癌は手術等の根冶療法が適応となる。しかし本邦ではなお初診時約半数の症例で遠隔転移を認めるため、ホルモン療法の重要性は高い。前立腺癌などのアンドロゲン依存性腫瘍はアンドロゲン除去により当初は治療に反応するが、最終的には反応しなくなりアンドロゲン非依存腫瘍に進行する。そこでホルモン非依存腫瘍に対する効果的治療が必要とされている。千葉大学泌尿器科で樹立されたアンドロゲン依存性SC115細胞は、培地内にアンドロゲンが存在しているときのみ無血清培地で成長可能である。アンドロゲン非依存CS2細胞はアンドロゲンの有無にかかわらず、無血清培地で成長可能である。アンドロゲン非依存癌に対する効果的な治療法を開発するため、ビタミンD3誘導体による両細胞の増殖制御を検討した。両細胞は1,25-dihydroxyvitamin D3、22-oxa-calcitriolによりアポトーシス特有のDNA配列の断片化や細胞の形態学的変化をおこし、増殖抑制された。そのアポトーシスにいたる過程において、ビタミンD3誘導体により、testosterone repressed prostatic message-2、transforming growth factor β1,glucose regu1ated 78 kilodalton protein、α-prothymosinとカルモデュリンの遺伝子における発現増加がノーザンブロット解析により判明した。一方、細胞周期解折では、ビタミンD3誘導体処理がG0/G1期で細胞増殖の停止をもたらすことも明らかとなった。以上より、アンドロゲン依存癌、非依存癌は、ビタミンD3誘導体によるアポトーシス誘導と細胞周期停止が示唆された。本研究成果はビタミンD3誘導体投与によるホルモン非依存癌の治療法開発に役立つものと思われた。
 
   
  前腕骨支持組織損傷による前腕部回旋不安定性に関する実験的研究
六角智之 高橋和久 山縣正庸  千葉大学医学部整形外科学講座


新鮮屍体上肢10肢を用いて前腕の回内回外回旋運動モデルを作成し、前腕支持組織損傷による回旋軸の変化につき検討を行った。支持組織の損傷は伸筋支帯、三角線維軟骨複合体(Triangular Fibrocartilage Complex、以下TFCC)掌側、TFCC背側、骨間膜、輪状靭帯、方形回内筋を順次切離し作成、切離順で2群に分けた。三次元運動解析はHelical motion analysisを用い、Helical axisを回旋軸とみなし、その変化を検討した。前腕近位での回旋軸はいかなる切離でも変化しなかった。TFCCの部分損傷では掌側、背側で違いはなく、遠位橈尺関節レベルでの軸の変化はすべて回内位でわずかに生じ、回外位での変化は生じなかった。TFCCの全損傷でさらに軸は変化し、遠位橈尺関節亜脱臼を回内位で生じたが、回外位での変化は生じなかった。回外位での回旋軸の変化はTFCC、骨間膜、方形回内筋の広範囲損傷もしくは輪状靱帯損傷が加わることによって生じた。以上より回外位不安定性を示す場合、前腕支持組織の広範な損傷が示唆され、尺骨遠位の切除形成術は適応を慎重に考える必要があるといえる。
 
   
  千葉大学眼科における過去10年間の視神経疾患の統計
佐藤公美 安達惠美子 藤本尚也 溝田 淳  千葉大学医学部眼科学講座


千葉大学眼科において過去10年間に視神経疾患と診断された患者についてその原因と臨床像を検討した。対象は、1985年1月から1994年12月の間に当科を初診した37,911人のうち、視神経疾患とされた328人。原因別にみると、多発性硬化症52人、中毒性視神経症36人、虚血性52人、外傷性33人、鼻性15人、遺伝性6人、原因不明が134人であった。発症年齢は多発性硬化症、原因不明ともに30代がもっとも多く、虚血性視神経症では50才以上が多かった。他は、特に特徴がみられなかった。性別をみると、女性153人、男性175人、多発性硬化症、虚血性視神経症、原因不明では半数以上が女性だった。発症眼は両眼性が109人、片眼性は219人だった。多発性硬化症52人の中で42人にMRIを施行したところ、28人に頭蓋内の、2人に脊髄の脱髄性変化を認めた。10人で異常を認めなかった。多発性硬化症と原因不明を比較した場合、両者とも発症時の視力は様々だが、半数以上が回復時に1.0以上となった。また初発症状として視力低下が最も多かったこと、予後も半数以上で回復したことなど共通点が認められた。以上より、原因不明の視神経炎のなかに多発性硬化症が潜んでいる可能性が示唆された。
 
   
  Osteopathyの医学教育: New England大学における医学生の教育
Frank H. Willarda), Jane E. Carreirob), Bruce Batesc) and Ahmmed Allyd)
Departments of Anatomya), Osteopathic Manipulative Medicineb), Clinical Affairsc) and Pharmacologyd), College of Osteopathic Medicine, University of New England, Biddeford, Maine, USA
石出猛史1) 赤坂 武2) 最上和夫3)(訳) 1)千葉大学医学部内科学第三講座 2)千葉大学医学部附属高次機能センター免疫機能分野
3)最上内科クリニック


Osteopathic Medicineは米国で19世紀の後半に発達した医学である。その理念は、人体の優れた機能と疾患に対する抵抗力を引き出すことにより、個々人の健康管理を行うことにある。0steopathic Medicineの実技にはmanipulation手技も含まれており、これは診察だけではなく治療の手段としても用いられている。20世紀に入ると、osteopathyを行う医師はそのための資格を取得しなければならず、そのためには学士号を取得した後、4年間の医学教育と数年間のレジデント訓練を必要とする。Maine州Biddeford市にあるNewEngland大学Osteopathy医学校では、4年間の充実した医学教育課程を2つに分けている。最初の2年間は、講義と小グループに分かれての問題解決方式による基礎的な教育に重点を置いている。後半の2年は、大学の周辺にある病院と教育施設に指定されている個人開業医院における、臨床実習にあてられる。このような訓練を通じて、学生は個々の患者の健康管理を行なうための、Osteopathic Medicineの原理と実践方法を身につけていくのである。
 
   
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