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千葉医学 80 (3) :97-139, 2004

講座
続ゐのはな昔がたり
 石出猛史(和文・PDF)
 
症例
Peutz - Jeghers症候群に合併した小腸の重複癌を伴う直腸癌の1手術例
 石 聡 山本義一 所 義治 舟波 裕 当間智子 笹川和志 大谷俊介 島田忠長 関 幸雄 落合武徳(和文・PDF)

話題
学校保健法施行規則改正に伴う結核健診
 杉田克生(和文・PDF)

学会
第1076回千葉医学会例会・平成15年度千葉大学大学院医学研究院胸部外科学・基礎病理学例会(和文・PDF1,2,3,4
第1078回千葉医学会例会・第21回神経内科教室例会(和文・PDF1,2,3,4,5,6,)
第1082回千葉医学会例会・千葉大学大学院医学研究院腫瘍内科学例会(和文・PDF1,2,3,4,5,6,7,8) 第1086回千葉医学会例会・第6回環境生命医学研究会(和文・PDF1,2,3

編集後記(和文・PDF

 
   
  続ゐのはな昔がたり
石出猛史  千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学


 本学医学部の起源とされる共立病院は,明治7年(1874),千葉町の醤油醸造業者近江屋事柴田仁兵衛の倉庫を借りて開始された。一方,当時の院長二階堂謙の県知事に対する熱心な働きかけが功を奏し,共立病院においても遺体の解剖実習を行うことが可能となった。当初,解剖は千葉新田にあった墓地内の小屋で行われた。第一高等中学校医学部時代に入ると,「長尾文庫」が創設され,近隣の住民にも解放された。文庫は,後に,本学図書館亥鼻分館に吸収されたと考えられている。医学部がある亥鼻山は,中世には千葉氏の本城があったとされている。数次にわたる発掘調査が行われており,城郭の遺構は確認されているものの,大規模な建造物の遺跡は見出されていない。近世以降繰り返されてきた畑地としての耕作,佐倉藩陣屋等の構築により,遺跡が破壊されてきたことも推定される。七天王塚の石碑群も風化等による破損が進んでいる。明治初頭の地藉調査記録中,千葉町に「千葉七俗霊神塚」の記述がみられる。七天王塚の原型と考えられるが,実態は不明である。
 
   
  Peutz - Jeghers症候群に合併した小腸の重複癌を伴う直腸癌の1手術例
石 聡 山本義一 所 義治 舟波 裕 当間智子 笹川和志 大谷俊介 島田忠長 関 幸雄 落合武徳
千葉大学大学院医学研究院先端応用外科学


  症例は49歳,女性。数年前より下血があり,便意も頻回となったため当院受診。直腸指診にて全周性の腫瘍を触知したため即日入院。@口唇の色素沈着A消化管ポリポーシスB家族歴より完全型のPeutz-Jeghers症候群(以下PJS)に発症した直腸癌と診断された。卵巣腫瘍も伴っており,直腸癌は膣壁にも浸潤していたため腹会陰式直腸切断術+子宮付属器および腟後壁切除術を施行した。術後経過は良好で現在通院加療中である。組織学的には直腸癌,卵巣癌ともに腺癌であり,直腸癌の卵巣転移と考えられた。術中に合併切除した小腸ポリープも高分化型腺癌であった。PJSに発症した消化器癌,重複癌につき文献的に考察した。
 
   
  学校保健法施行規則改正に伴う結核健診
杉田克生  千葉大学教育学部養護教育学基礎医科学部門


 T.はじめに
 小・中学校における結核の定期健康診断はこれまでツベルクリン反応検査(以下,ツ反応)を中心として行われてきた。小学校1年・中学校1年時にツ反応を行い,強陽性者等には胸部エックス線検査の精密検査を行った。ツ反応が陰性の場合にはBCG接種を勧奨し,BCG接種者にはそれぞれ翌年の小学校2年・中学校2年時に再びツ反応を実施し,そこで再び陰性ならBCG接種を勧奨した。  しかし日本における結核をめぐる状況が大きく改善し,従来の方法の定期健診による結核発見率は0.003%(1999年)と極めて低率となってきた[1]。一律に実施するツ反応によって過剰な精密検査や予防投与が行われていること,ツ反応・BCG接種を繰り返すことは結核感染が疑われた際のツ反応の評価や診断を困難にすることなども指摘されていた。以上のことから予防接種・学校健診の見直しが行われ,学校保健法施行規則を改正し,2003年4月より小・中学校ではツ反応を廃止して新たな制度が導入されている[2]。そこで,最近10年間の千葉市での結核発病者ならびに予防投与児童生徒を用い,新たな制度の有効性の根拠を検討した。さらに平成13年度千葉県で新たな制度下で行われた要検討者,精密検査対象者しぼりこみの現状について報告する。

U.結核の発見可能性
 1992年から2001年までの10年間,千葉市保健所に新規に登録された小・中学校(養護学校・その他の学校も含む)児童・生徒の結核患者,予防内服者全員を調査の対象とした。保健所のビジブルカードに記載されている情報をもとに分析表を作成し,この分析表から新たな制度による患者発見の可能性について検討を行った。新たな制度の内容は,小・中学校の全学年の児童・生徒を対象とし,質問1.本人の結核罹患歴,2.本人の予防内服歴,3.家族の結核罹患歴,4.高蔓延国での居住歴,5.継続する咳や痰の自覚症状,6.BCG接種歴(未接種の者)についての問診と,学校医による診察を行い,学校における結核対策に関する委員会において精密検査対象者をしぼりこむというものである。この間結核を発病した者が6名(小学校2名,中学校4名)いた。(表1)  発見方法は,「学校健診」3名,有症状による「医療機関受診」2名,結核以外の何らかの疾病による「入院中の発見」1名であった。感染源は6名とも不明であった。咳,痰,発熱など何らかの症状が現れていたのは6名全員であった。学校健診による発見例については,3名のうちすべてに咳,痰,発熱などの症状が継続して現れていた。したがって,学校健診による発見例3名すべてが新たな制度で精査にまわされることになる。ただし,症状継続期間については様々であり,事例によっては2週間未満のものもあった。このことから,新たな制度において全員に行われる問診・診察は重要であるが,症状の種類や期間については多様な可能性を考えた判断が必要になり,難しい面を持つことが予想される。「予防可能例」は阿彦の分類を参考にし[3],小・中学校の段階であることを考慮して表2のように設定した。6名中発病予防可能例は1名であり,要因は結果的に「発見の大幅な遅れ」であった。この事例は気管支拡張症・慢性気管支炎の既往歴があり,幼少期から慢性の咳症状があった。そのために発見が遅れたのではないかと考えられる。結核の初期症状である咳・痰などは,風邪やその他の疾患でもしばしば現れるものであることから,結核の発見が遅れる可能性がある。

V.予防内服者の検出について
 学校健診によって発見された予防内服者については,10年間の中で104名であり,この中で学校健診での検出例は58名であった。(図1)58名中,新たな制度における問診・診察により当てはまると考えられるものは15名のみであり,従って43名(約3/4)が新たな制度上では検出されないことになる。しかし,これまで学校健診によって発見され予防内服を指示された者全員が実際に結核に感染していたとは断定できない[4]。予防内服の基準は国が定めたものがあるが,実際上適用に迷う点も多く,千葉市においても従来の制度の上で過剰な予防内服が行われていた可能性がある。  

原因としてはツ反応が陽性を示しても,BCG接種によるものか,真に結核に感染したことによるものか鑑別が困難なことによると考えられる。予防内服は,結核の発病抑制に大きな効果があり,発病を防ぐことで2次感染の防止にもつながるため,重要であることは当然であるが,まれに副作用が現れる場合もあるので必要最小限にすべきである。新たな制度は,結核未感染者への不必要な予防内服を減らすという利点が期待できる。ただし,実際に結核に感染しているわずかの者が見逃される可能性が残ることは否定できない。新たな制度における問診や学校医による診察を確実に行うことで,精密検査の対象となるべき者を見落とさないことが重要である。問診の実施に際しては,問診票を記入する保護者の認識が健診の結果を大きく左右することになるため,今後,問診の方法・意義を保護者へわかりやすく示すことも必要である。

W.BCG接種について
 BCG接種については,患者6名のうち接種歴がないものが6名中2名,不明が3名,予防内服者104名中接種歴不明は33名(31.3%)であった。BCG接種は発病防止効果の持続期間が他の予防接種に比べて短く,学童期以降の結核の発症には効果が少ないと言われるが,初回接種の効果が約15年持続するという見解もあり,乳幼児期の結核性髄膜炎や粟粒結核等の重症結核の発症防止・重症化防止には有効と考えられている。今回,わが国の結核対策が包括的に見直され,乳幼児期の初回BCG接種についてもより積極的に推進されることになった。従ってBCG接種歴については,新たな制度における問診項目にも含まれ,今後も継続して注目すべき点である。就学時の保健調査等の機会にBCG接種をはじめとする予防接種歴を学校側が確実に把握する必要があり,保護者や児童・生徒自身の認識も不可欠となる[5]。

V.新制度下での千葉県での結核要検討者ならびに精密検査対象者しぼりこみ状況について
 2003年10月に無作為に抽出した千葉県内の小学校73校,中学校38校(計111校)を対象に郵送にてアンケート調査(選択式,一部自由記述式)を実施した。有効回答数は小学校59校(回答率約80.8%),中学校32校(回答率約84.2%),全体91校(回答率約82.0%)である。回答があった児童生徒の中で要検討者は,小学校児童総数21833名中975名(4.47%),中学校生徒総数11419名中388名(3.40%)である。割合が最も大きいのは君津地区6.22%,最も小さいのは千葉市2.20%であった (表3)。地区による相違の要因としては,問診表における要検討者数の違いに加え,問診項目での「有症状」者や家族の結核罹患状況からの選定における見解の違いも関与している可能性がある。要検討者のしぼりこみによる精査対象者の実際は,小学校児童総数21833名中精検対象者は330名(1.51%),中学校生徒総数11419名中147名(1.29%),全体児童生徒総数33252名中477名(1.43%)であった。割合が最も大きいのは君津地区2.60%,小さいのは夷隅長生市原地区0.49%であった。要検討者に対する精査対象者の割合は全体で40.0%,地域別では13.8%〜57.73%と著しい差が生じた。今後は,新たな制度へ移行するにいたった医学的背景を理解し,要検討者,精密検査対象者選定の基準を千葉県下で統一させることが必要と思われる。

Y.結  語
 1992年から2001年までに千葉市保健所に登録された小・中学生の結核患者6名の結果からも,学校健診での結核生徒の検出は新たな制度下で可能である。従来学校健診で検出された予防投与対象者は,新たな制度下では1/4に減少することが予想される。新たな制度の導入にあたり,定期健診の際に結核の症状を見逃すことなく慎重に対応し,学校や家庭において早期発見に努めることが必要である。

謝  辞
 本研究を行うにあたり,調査にご協力頂きました千葉市保健所感染症対策課,財団法人結核予防会千葉県支部(現財団法人ちば県民保健予防財団)ならびに千葉県内小中学校養護教諭の皆様に心より感謝申し上げます。なお,本研究の一部は「結核予防千葉基金医学研究助成」を受けて行われたものである。
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