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千葉医学雑誌

千葉医学雑誌一覧
 
千葉医学 80 (6) :245-291, 2004

展望
肺がん組織分類の進展と課題: WHO分類改訂から5年を経て
 中谷行雄(和文・PDF)
医療情報から病院企画経営へ: 医療情報の発展と応用
 高林克日己(和文・PDF)

症例
Low dose FP療法が奏功した高度進行胃癌の1例
 三浦文彦 神宮和彦 菅本祐司 落合武徳 鈴木孝雄 高田忠敬 安田秀喜 長島郁雄 天野穂高 吉田雅博(英文・PDF
千葉大学病院において生体部分肝移植手術を実施した8症例
 小林 進 落合武徳 他 (和文・PDF)

学会
 第1075回千葉医学会例会・第21回第二内科教室例会(和文・PDF1,2,3,4,5,6,7,8
 第1083回千葉医学会例会・第11回千葉泌尿器科同門会学術集会(和文・PDF1,2,3,4,5,6

編集後記(和文・PDF)

 
   
  肺がん組織分類の進展と課題: WHO分類改訂から5年を経て
中谷行雄  千葉大学大学院医学研究院基礎病理学


  1999年,18年ぶりに改訂されたWHOの『肺および胸膜腫瘍組織分類』(新WHO分類)は,この間の肺がん病理学の進歩を取り込み,大幅な改訂となった。新たに導入されたカテゴリーで注目すべきものとしては,1)末梢肺腺癌の発生初期から進行癌に至る各過程に対応すると想定される,異型腺腫様過形成(AAH)と一連の病変,2)大細胞神経内分泌癌(LCNEC)を含む神経内分泌系腫瘍群,3)高分化胎児型腺癌(WDFA)など腺癌の特殊型,4)「多形,肉腫様あるいは肉腫成分を含む癌」という新カテゴリー,などである。肺がんが極めて多彩な組織型・組織亜型を呈し,その多くで特有の臨床病理像を有することやそれらの相互関係の理解が深まったことから,新WHO分類の複雑化・詳細化は必然の流れであったろう。改訂後5年を経た現在,AAHに始まる肺腺癌の発生と進展に関する新たな概念は臨床現場での診断・治療に新しい展開をもたらしている。LCNECは組織診断の再現性に本質的な問題を有する可能性も浮上し,神経内分泌系腫瘍のカテゴリーに関する議論は未だに絶えない。WDFA,肺芽種は組織形態と遺伝子異常の関係を考える上で,興味深い知見が最近得られている。病理形態学に基づく組織分類は,今後も肺癌研究・診療の基本座標としての役割を果たしつつ,分子病理学的知見を組織レベルの表現型に結びつけて,あるいは形態解析にフィードバックすることで,その座標中に位置づけて行くことが益々重要になると思われる。
 
   
  Low dose FP療法が奏功した高度進行胃癌の1例
1)三浦文彦 1)神宮和彦 1)菅本祐司 2)落合武徳 3)鈴木孝雄 4)高田忠敬 4)安田秀喜 4)長島郁雄 4)天野穂高 4)吉田雅博
1)埼玉県厚生連幸手総合病院外科 2)千葉大学大学院医学研究院先端応用外科学 3)最成病院外科 4)帝京大学医学部外科


  胃癌でVirchowリンパ節転移を伴う場合は予後不良とされているが,Low-Dose FP療法(5-FU+低用量CDDP)が奏功して,長期生存が得られた高度進行胃癌の1例を経験した。症例は61歳,男性。心窩部痛を主訴に当科を受診した。眼瞼結膜に貧血,左鎖骨上リンパ節を硬く触知した。内視鏡では,体中部から十二指腸球部におよぶ小弯を中心とする2/3周性のBorrmann3型の腫瘍を認めた。CTでは腹腔動脈周囲と大動脈周囲のリンパ節の腫大を認めた。Virchowリンパ節転移,および著明な腹腔内リンパ節転移を伴った進行胃癌と診断し,幽門側胃切除術を施行した。病理組織学的には中分化腺癌,深達度seだった。術後2週に肝十二指腸間膜内リンパ節転移による閉塞性黄疸が出現したため,PTBDを施行。胆管造影では上部胆管での完全閉塞を認めた。減黄の後,化学療法として,Low-Dose FP療法を施行した。1クール施行後の胆管造影で胆管の再開通を認めた。再閉塞予防のために金属ステントを留置して退院。左鎖骨上リンパ節腫大は化学療法施行後3ヶ月で触知しなくなった。術後3年11ヵ月間生存したが,肝転移のため死亡した。

 
   
  千葉大学病院において生体部分肝移植手術を実施した8症例
 小林 進 落合武徳 他 千葉大学大学院医学研究院先端応用外科学他


 千葉大学医学部附属病院において2000年3月から,2003年8月まで8例の生体部分肝移植手術を施行した。5例が18歳未満(7ヶ月,4歳,12歳,13歳,17歳)の小児例,3例が18歳以上(22歳,55歳,59歳)の成人例であった。2例(7ヶ月,4歳)の小児例は左外側区域グラフトであるが,他の6例はすべて右葉グラフトであった。2例が肝不全,肺炎のため移植後3ヶ月,2ヶ月で死亡となったが他の6例は健存中であり,元気に社会生活を送っている。  

第1例目は2000年3月6日に実施した13歳男児のウイルソン病性肝不全症例に対する(ドナー; 姉22歳,右葉グラフト)生体部分肝移植である。現在,肝移植後4年3ヶ月が経過したが,肝機能,銅代謝は正常化し,神経症状も全く見られていない。  

第2例目は2000年11月23日に実施した12歳男児の亜急性型劇症肝炎症例である(ドナー; 母親42歳,右葉グラフト)。術前,肝性昏睡度Vとなり,痛覚反応も消失するほどの昏睡状態であったが,術後3日でほぼ完全に意識は回復し,神経学的後遺症をまったく残さず退院となった。現在,術後3年7ヶ月年が経過したがプログラフ(タクロリムス)のみで拒絶反応は全く見られず,元気に高校生生活を送っている。  

第3例目は2001年7月2日に実施した生後7ヶ月男児の先天性胆道閉鎖症術後症例である。母親(30歳)からの左外側区域グラフトを用いた生体部分肝移植であったが,術後,出血,腹膜炎により,2回の開腹術,B3胆管閉塞のためPTCD,さらに急性拒絶反応も併発し,肝機能の改善が見られず,術後管理に難渋したが,術後1ヶ月ごろより,徐々にビリルビンも下降し始め,病態も落ち着いた。術後6ヵ月目に人工肛門閉鎖,胆管空腸吻合を行い,現在,2年11ヶ月が経過し,免疫抑制剤なしで拒絶反応は見られず,すっかり元気になり,精神的身体的成長障害も見られていない。  

第4例目は2001年11月5日に行った22歳男性の先天性胆道閉鎖症術後症例である(ドナー; 母親62歳,右葉グラフト)。術後10日目ごろから,38.5度前後の熱発が続き,白血球数は22,700/と上昇し,さらに腹腔内出血が見られ,開腹手術を行った。しかし,その後敗血症症状が出現し,さらに移植肝の梗塞巣が現れ,徐々に肝不全へと進行し,第85病日死亡となった。  

第5例目は2002年1月28日に行った4歳女児のオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症症例である(ドナー; 父親35歳,左外側区域グラフト)。肝移植前は高アンモニア血症のため32回の入院を要したが,肝移植後,血中アンモニア値は正常化し,卵,プリンなどの経口摂取が可能となり,QOLの劇的な改善が見られた。現在2年5ヶ月が経過したが,今年(2004年)小学校に入学し元気に通学している。  

第6例目は2002年7月30日に行った17歳女性の亜急性型劇症肝炎(自己免疫性肝炎)症例である(ドナー; 母親44歳,右葉グラフト)。意識は第2病日までにほぼ回復し,第4病日まで順調な経過をたどっていた。しかし,第6病日突然,超音波ドップラー検査で門脈血流の消失が見られた。同日のCTAPにて,グラフトは前区域を中心とした広範囲の門脈血流不全域が示された。その後,肝の梗塞巣は前区域の肝表面領域に限局し,肝機能の回復が見られたが,多剤耐性菌による重症肺炎を併発し,第49病日死亡となった。  

第7例目は2003年3月17日に行った59歳男性の肝癌合併肝硬変症例(HCV陽性)症例である(ドナー; 三男26歳,右葉グラフト)。Child-Pugh Cであり,S8に4個,S5に1個,計5個の小肝細胞癌を認めた。ドナー肝右葉は中肝静脈による広い環流域をもっていたため,中肝静脈付きの右葉グラフトとなった。術後は非常に順調な経過をたどり,インターフェロン投与によりC型肝炎ウイルスのコントロールを行い,移植後1年3ヶ月を経過したが,肝癌の再発も見られず順調な経過をとっている。  

第8例目は2003年8月11日に行った55歳男性の肝癌合併肝硬変症例(HBV陽性)症例である(ドナー; 妻50歳,右葉グラフト)。Child-Pugh Cであり,S2に1個,S3に1個,計2個の小肝細胞癌を認めた。グラフト肝は470gであり過小グラフト状態となることが懸念されたため,門脈−下大静脈シャントを作成した。術後はHBV Immunoglobulin, ラミブジン投与により,B型肝炎ウイルスは陰性化し,順調に肝機能は改善し合併症もなく退院となった。現在移植後10ヶ月が経過したが,肝癌の再発も見られず順調な経過をとっている。  ドナー8例全員において,血液及び血液製剤は一切使用せず,術後トラブルもなく,20日以内に退院となっている。また肝切除後の後遺症も見られていない。

 
   
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