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千葉医学 82 (3) :133-207, 2006

総説
食道アカラシア手術の最近の進歩
島田英昭 林 秀樹 岡住慎一 落合武徳 (和文・PDF
 
原著
高機能自閉症患者における視線弁別に関する機能的MRI研究
 竹林啓子 松本英夫 小粥正博 関根吉統 鈴木勝昭 松崎英夫 John Suckling 小澤福示郎
 福田倫明 内山伊知郎 中村和彦 三辺義雄 礒田治夫 森 則夫 武井教使 (英文・PDF/HTML

耐糖能障害を伴う敗血症患者におけるインスリンクリアランス測定法およびインスリンクリアランスへ影響する要因の検討
− ベッドサイド型人工膵臓による厳密な血糖管理下での分析−

 星野正己 原口義座 平澤博之 水島岩徳 田中千絵 森田泰正 横井健人 酒井基広 (英文・PDF/HTML

千葉県における精神鑑定,措置入院治療等の実態に関する調査研究
 藤ア美久 伊豫雅臣 橋本謙二 (和文・PDF

腰椎椎間板ヘルニアの臨床経過−造影MRIによる検討
 川辺純子 萩原義信 渡辺英詩 平山博久 小山忠昭 高橋和久 (和文・PDF
 
症例
術後嚥下障害を発症した強直性脊椎骨増殖症の1例
 鈴木宗貴 新籾正明 政木 豊 腰塚周平 高澤 誠 高橋和久 (和文・PDF

話題
ハングルの田舎から日本の先端研究へ 
 姜 美子 (和文・PDF

学会
第1114回千葉医学会例会・第28回千葉大学循環病態医科学例会 (和文・PDF
第1116回千葉医学会例会・千葉大学大学院医学研究院先端応用外科学平成17年度例会 (和文・PDF
第1120回千葉医学会・第5回千葉大学大学院医学研究院胸部外科学・診断病理学教室例会 (和文・PDF
編集後記 (和文・PDF

 
   
  高機能自閉症患者における視線弁別に関する機能的MRI研究
竹林啓子1),松本英夫2),小粥正博1),関根吉統1),鈴木勝昭1),松崎英夫1),John Suckling3),小澤福示郎4),福田倫明5),内山伊知郎6),中村和彦1),三辺義雄1),礒田治夫7),森 則夫1),武井教使1, 8) 
1) 浜松医科大学精神神経科,2) 東海大学医学部精神科,3) ケンブリッジ大学精神科Addenbrooke病院 4) 浜松ホトニクス中央研究所第5研究室,5) 東京大学医学部精神神経科,6) 同志社大学文学部心理学科 7) 浜松医科大学放射線科,8) ロンドン大学精神医学研究所

 我々は,高機能自閉症患者が視線弁別の際に「心の理論theory of mind (ToM)」に関連する脳部位の異常活性を認めるかについて検証した。磁気共鳴機能画像法functional Magnetic Resonance Imagingを用いて,5人の高機能自閉症患者と9人の健常者に視線弁別のタスクを行なった。この結果,健常者では患者群に比べて,左中前頭回,右頭頂間溝,両側中心前回,両側下頭頂回により高い活性が認められた。一方,患者群では健常者に比べて左上側頭回,右島,右内側前頭葉により高活性が認められた。以上より,高機能自閉症患者では,(1) ToM関連の脳部位における機能的以上,および (2) 通常,他者の視線からの情報を処理する際には見られない,脳の広範囲にわたる脳部位における機能的異常があることが示唆された。
 
   
  耐糖能障害を伴う敗血症患者におけるインスリンクリアランス測定法およびインスリンクリアランスへ影響する要因の検討
− ベッドサイド型人工膵臓による厳密な血糖管理下での分析−
星野正己1) 原口義座2) 平澤博之3) 水島岩徳4) 田中千絵4)森田泰正1) 横井健人1) 酒井基広4)
1)東京警察病院救急集中治療部,4)同 臨床工学部 2)独立行政法人国立病院機構災害医療センター 3)千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学


 【目的】敗血症患者に生じる耐糖能障害の原因として,或いはインスリンの治療効果と関連する要因として,インスリンクリアランス(IC)は重要と考えられる。しかし,敗血症患者のICは明らかではない。そこで,敗血症患者に対するIC測定法を考案し,敗血症患者のICおよびICに影響する要因を明らかにすることを目的とした。
 【方法】非敗血症患者7名,耐糖能障害を生じた敗血症患者22名を対象とした。ベッドサイド型人工膵臓(AP)を用いて,クランプ血糖値80r/dL,two stepのインスリン注入率(IIR: 1.12,および3.36mU/s/min)によるグルコースクランプ(GC)法でICの測定を試みた。ICへ影響する要因の検討項目は,慢性疾患におけるIC影響因子(年齢,肥満度,高脂血症,血中乳酸値・ストレスホルモン,臓器障害関連パラメータ等)とした。
 【結果】1)IC(mL/s/min)は僮IR/僮≒2240/(I3−I1)で測定可能と考えられた。〔僮IR: インスリン注入率差,僮(mU/L): インスリン注入による血中インスリン濃度差,I1(I3): インスリン注入率1.12(3.36)時の血中インスリン濃度〕2)敗血症患者のICは11例(50%)で増加,8例(36%)で正常であった。3)ICと心係数との間には正の相関がみられた。(Y=3.3X+4.0, n=22, r=0.63, P<0.002)
 【結論】Two stepのインスリン注入率を用いた我々の修正グルコースクランプ法を用いることにより,敗血症患者のICは測定可能であった。心係数の増加を伴うhyperdynamic stateはICの増加と密接に関連していた。
 
   
  千葉県における精神鑑定,措置入院治療等の実態に関する調査研究
藤ア美久1,2) 伊豫雅臣1,2) 橋本謙二1)
  1) 千葉大学社会精神保健教育研究センター 2) 千葉大学大学院医学研究院精神医学

 千葉県内の精神科医212人に対して郵送法にて司法精神医学に関する調査を行った。回答者は88名であり,回答率は42%であった。このうち精神鑑定経験者数は38名(43%)であり,刑事精神鑑定(正式鑑定または嘱託鑑定,以下本鑑定)経験者は28名で,簡易鑑定経験者は26名であった。本鑑定経験数は1から50回,簡易鑑定経験数は1から105回であり,両者ともとばらつきが大きく,一部の鑑定人が多数の鑑定をこなしていることが示めされた。国際疾病分類(ICD-10 精神および行動の障害)や精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(DSM-IV)に比べ,従来診断法が73%(本鑑定),52%(簡易鑑定)と多かった。措置入院治療は55%の回答者が経験していた。治療目標は幻覚妄想85%,衝動制御65%,服薬遵守50%,反社会的行動46%,病識を持たせることが44%,希死念慮の改善が25%であった。この治療目標の達成度は,それぞれ75%,71%,71%,63%,50%,そして82%であった。治療法としては,薬物療法は100%用いられており,電気ショック療法も21%で用いられていた。精神療法としては洞察的精神療法が25%,行動療法や認知行動療法等の指示的精神療法が38%であった。退院後の処遇として,保健所や訪問看護を用いない,一般外来のみの場合が52%であった。また,刑事鑑定についてトレーニングとしては,鑑定助手(トレーニングを受けた中での割合82%),アドバイス(75%)によるものが多く,系統的な研修の必要性が示唆された。トレーニング受講は全回答者88名中48名(55%)が希望していた。  以上より,精神鑑定における診断方法についての統一化や新しい治療法の導入,そしてそれらについての系統的な研修の必要性が示唆された。
 
   
  腰椎椎間板ヘルニアの臨床経過−造影MRIによる検討
川辺純子 萩原義信1) 渡辺英詩2) 平山博久2)  小山忠昭3) 高橋和久  
千葉大学大学院医学研究院整形外科学
1) 城東社会保険病院 2) 医療法人社団英志会 渡辺病院 3) 沼津市立病院


 MRIの普及にともない,腰椎椎間板ヘルニアの自然経過を容易に観察できるようになり,その自然縮小・消失例が多数報告されている。さらに造影MRIにより,自然縮小・消失がある程度予測されるようになってきた。今回,造影所見の違いに基づいた治療法選択が成立する可能性をさらに検討し,新たな知見が得られたので報告する。  対象は,2002年3月より2003年7月までの期間,外来受診した腰椎椎間板ヘルニア症例のうち造影MRIを施行した54例54椎間である。その造影所見により3 type (Type T: ヘルニア周囲が全周性に造影,Type U: ヘルニア周囲が一部造影,Type V: ヘルニア周囲が造影されない)に分類し,それぞれ保存療法を約30日間施行し,その間の症状経過およびその後の治療方法,症状出現時およびその約30日後の日整会腰痛疾患治療成績判定基準(以下JOAスコア)29点のうち日常生活動作項目14点を除いた15点満点,最終経過観察時改善率を比較検討した。  症例の内訳は,保存療法45椎間,手術療法9椎間であった。各Typeにおける治療法は,TypeT 17椎間中手術療法0%。TypeU22椎間中手術療法4椎間18%。TypeV 15椎間中手術療法5椎間33%であった。また,JOAスコアによる改善率でも,TypeTで他の群に対して有意な改善を認めた。  今回,一律に保存療法を約30日間施行した結果,TypeT全例が手術を回避できた。この結果より,腰椎椎間板ヘルニアの造影MRIでTypeTと確認されたら,保存療法を約30日間施行すれば,手術療法を回避できる可能性が高いと考えられた。
 
   
  術後嚥下障害を発症した強直性脊椎骨増殖症の1例
鈴木宗貴 新籾正明1)  政木 豊1)  腰塚周平1)  高澤 誠2) 高橋和久
千葉大学大学院医学研究院整形外科学 1) 国保成東病院整形外科 2) 成田赤十字病院整形外科

 頸椎前方巨大骨化巣のため気管カニューレ抜去不能と他科にて判断された51歳男性に対しC2〜C5高位に前方切除術を施行した。術翌日に嚥下障害が発症し、喉頭鏡及び嚥下造影検査の所見から喉頭の感覚を司る上喉頭神経内枝麻痺と診断した。嚥下障害は保存治療にて術後3ヶ月で軽快した。麻痺の原因として喉頭過牽引による損傷が考えられた。上位頚椎前方手術では本症の可能性を念頭におくべきと考えられた。
 
   
  ハングルの田舎から日本の先端研究へ
姜 美子
千葉大学大学院医学研究院 臨床遺伝子応用医学


 平成15年度の千葉大学よんまる会奨学生の姜 美子と申します。2001年7月に来日して日本の生活ももう5年目になりました。私は中国吉林省延辺の出身です。現在,千葉大学大学院医学研究院の3年生です。細胞治療学齋藤 康先生,臨床遺伝子応用医学武城英明先生の下で勉強しています。私の研究テーマは高脂血症,動脈硬化,肥満いわゆる生活習慣病に関する研究です。  

 吉林省は中国の東北に位置し,私の故郷の延辺朝鮮族自治州は吉林省の東にあります。故郷は四季がはっきりしています。夏は温度30度程度まで上がり,冬は寒い時はマイナス30度くらいまで下がりますが,春と秋は穏やかで過ごしやすいところです。人口は200万人くらいで,そのうち朝鮮族が約50%を占めています。中国は56の民族が存在し,朝鮮族の割合は0.17%,延辺朝鮮族自治州の首都延吉市は人口が約35万人です。延吉と言えば中国でも小さくて知っている人はあまりない小さな町なので,初めて延吉という町を聞いた方が多いかと思いますが,実は日本でもテレビでよく出てくる町なのです。私もテレビ番組で脱北者の問題で何回か延吉の町が出て来たのを見ました。約100年前に私の祖先は新たな土地を開拓するために朝鮮半島から中国に渡り,新たな土地を見つけて生活し始めました。その後生活ができるように建物が作られて,それとともに朝鮮族が集まって住む町ができました。新しい中国が成立してからは中国の国民になりました。そして,人口が更に増えてきて朝鮮族を中心とした延辺朝鮮族自治区ができました。  

 私が初めて日本に来て驚いたことがあります。お餅は私達朝鮮族にとって欠くことのできない存在です。特にお正月や,お祝いの時には必ず食卓にでるのがお餅です。味噌もお餅と同じように朝鮮半島にしかない食べ物だと思っていましたが,日本のスーパーで普通に買えることは本当に驚きでした。延辺朝鮮族自治州では朝鮮族の初等学校,中学,高校と朝鮮族を中心とした国立大学があります。私は,延吉からさらにバスで山を二つ程超えていくところにある村で1男4女の兄弟の末っ子で生まれました。私が小さい頃に,村には50世帯,約300人が住んでいて同級生も6人いました。父は地元の朝鮮族小学校の校長で,私達に厳しくてとても怖い人でした。小学校は学年ごとに一つのクラス30人ぐらいの小さな田舎の学校でした。小学2年生からは中国語を習い始めました。という訳で小学校の頃から普通の学生より一科目多かったのです。中学校は家から5キロ離れた地元の朝鮮族学校に通いました。学校へ通う道は山道で,春に杏の花が満開するととても美しい景色になるし,夏は緑に囲まれて落ち着いた雰囲気ですが,冬に雪が積もると周りは白い世界になります。当時同級生より一つ年下のため体が小さかった私には通学が大変でした。中学で外国語として日本語を習い始めました。今若い人は町へ移って生活するため私の村には20世帯60人ぐらいしか住んでいない,さびしい村に変わってしまいました。そのため,私が通った小学校,中学校も父が退職した直後には学生が少なくなったため無くなってしまいました。とても寂しい思いです。  

 私の人生で一番の転機になったのは延辺朝鮮族自治州の延吉の町にある高校に入学できて,寄宿舎の高校の生活が始まったことです(延辺第一高校http://www.yb1hs.com)。食事から勉強,洗濯まで全部自分で決めてやらなければなりませんでした。最初は慣れるのが大変でしたが,そのうち友達もたくさんできて楽しい高校生活を送ることができました。そして,楽しい思い出がたくさん残りました。今,日本に来ている高校の同級生が10人あまりいるので,忘年会も忘れずに毎年開いています。小学校から高校までずっと朝鮮族学校で同じ朝鮮族の同級生と一緒に教育を受けて来たわけですが,大学は地元を離れて長春にあるベチューン医科大学(現在は吉林大学医学部)に入学しました(写真1)。クラスには私以外は皆中国語を母国語として話す学生でした。違う民族の学生である私と一緒に勉強することになったのは,ほとんどの同級生にとって初めてだそうで,始めのうちは同じ国でありながら,まるで外人を見るような目で見られてしまいました。中国語で交流するのは私にとって初めてなので大変苦労しました。自分が周りの人とは違うということを非常に敏感に感じる時期でもありました。この前は指導教官に半分冗談で「今は日本語の方が中国語より上手になったのではないですか」と聞かれて,自分でも両方とも下手だけど,本当はどっちが上手だろうと真面目に悩んでしまいました。  

 延辺では観光地として白頭山(天池)が有名です(http://www.cbs-tour.com)。白頭山は,中国国境と北朝鮮に位置している火山で,天池は白頭山の峰にある火山口で,長い時間を経て湖になりました。白頭山は1597年,1688年,1702年に3回大きな火山活動をし,天池は火山口に水が溜まった,青い色の美しい湖です。中国は大陸で,火山がめったにないから温泉もわずかしかないのです。白頭山の天池の高さは2,189メートル,世界一高い火山の湖で有名です。池はタ円形で長さ4.4q,幅3.37q,平均深さが204m,一番深いところが373mもあるそうです。水温はとても低くて真夏でも最高11度です。天池は秘密が多い所です。普段はしずかな湖ですが,船は真ん中辺りに進むと沈んでしまうという話があります。十数年前からはネッシーがよく現れるという噂もあります。白頭山の天気は,高山のため変化が頻繁です。一日に数回,1時間でも数回変わる時もあります。そこで,地元の人々は気まぐれな性格をしている人を白頭山の天気といいます。私は1996年大学を卒業した夏に初めて白頭山に登りました。登る時には天気がくずれていましたが途中から晴れて,池に着いた時にはまったく雲がない白頭山には珍しいよい天気になり向こう側まではっきり見えました。白頭山の滝は長さ68mと世界一落差の大きい火山滝です。遠いところから滝の流れる音が聞こえます。  

 白頭山には虎,熊,鹿,猪などのいろいろな種類の動物が生きています。一番有名な動物は東北虎です。昔は数多かったそうですが,近年は数少なく特級保護動物になりました。日本には温泉が多いですが,中国では火山があまりないため温泉が珍しいのです。白頭山(天池)には温泉もあるので,中国と韓国の観光客に人気があります。  

 このように大学生活も過ぎてしまい,私は,大学を卒業して故郷にもどり延吉にある延辺第二病院で内科医として仕事を始めました。内科の医師として仕事をする間,もっと勉強が必要と思い日本へ留学することを考えました。そして,英語を勉強し1年後には夢がかない千葉に来ることができ,大学院に入学することができました。現在,研究は大変ですがとても充実した留学生活を送っています。最後に私が行っている研究について少しお話します。中国でも増えてきましたが,日本ではコレステロールの高い人がたくさんいます。心臓や脳の血管が詰まる,いわゆる動脈硬化の原因となります。コレステロールを下げる薬として世界中で使われている薬にHMG-CoA還元酵素阻害薬があります。私の所属する研究室で最も強力にコレステロールを下げる薬が作られました。私はこのピタバスタチンがどのように動脈硬化を防ぐのか研究しています。  

 今,大学院3年生を終わろうとしています。11月に米国ダラスで行われた,動脈硬化研究分野で最先端の学会であるアメリカ心臓学会(AHA)に同行させていただき,研究成果を発表し,世界の研究者と討論するという中国で生活していた時には予想しなかった貴重な機会を与えていただきました(写真2)。  

 最後になりますが,ハングルの田舎から日本の先端研究という私にとってかけがえのない経験を与えて下さいました,千葉大学よんまる会の先生方に心から御礼申し上げます。
 
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