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千葉医学雑誌一覧 |
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千葉医学 74
(1) :1-81, 1998
■講座
江戸の腑分
石出猛史
■原著
日本人ライ症侯群、ライ様症侯群、Apparent Life Threatening Event症例におけるミトコンドリア脂肪酸酸化酵素活性レベルの検討
阿部博紀
慢性誤嚥が発症に関与した小児急性呼吸窮迫症侯群の気管支肺胞洗浄液所見の検討
清水直樹 平野清美 高梨潤一 杉田克生 新美仁男
125I標識ヒト型モノクローナル抗体4G12のin vitroおよびin vivo における反応特異性と生体内分布に関する研究
松原宏昌
ヒト食道癌の発生進展過程におけるp53遺伝子変異の検出に関する検討
遠藤正人
■海外だより
ノースカロライナ大学
秋草文四郎
■学会
第9回千葉小児成長障害研究会
第947回千葉医学会例会、第二内科例会
第912回千葉医学会例会、整形外科例会
第950回千葉医学会例会、整形外科例会
第14回千葉糖尿病研究会
■編集後記
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●江戸の腑分
石出猛史 千葉大学医学部内科学第三講座
江戸時代に行われた「腑分」は日本の近代医学の魁である。『蔵志』を著した山脇束洋、『解体新書』を著した前野良沢・杉田玄白らによる腑分は、良く知られている。しかし多くの腑分については、ほとんど知られていない。文久元年(1861)幕府種痘所は、医学生の解剖教育のために、腑分を種痘所で定期的に行えるように、町奉行所に働かけた。この時は小伝馬町牢屋敷で腑分が行われた。明治に入っても猶、刑死体が解剖実習に供された。
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●日本人ライ症侯群、ライ様症侯群、Apparent Life Threatening Event症例におけるミトコンドリア脂肪酸酸化酵素活性レベルの検討
阿部博紀 千葉大学医学部小児科学講座
近年ライ症候群、ライ様症候群およびApparent Life Threatening Event(ALTE)と、ミトコンドリア脂肪酸酸化系酵素異常症との関連が注目されている。今回、従来報告されてきた測定法に準じて、ライ症侯群、ライ様症候群、ALTEを示した日本人12症例についてミトコンドリア脂肪酸酸化系酵素の活性レベルについて検討した。健康人対照の線維芽細胞とリンパ芽球を用いて脂肪酸酸化系酵素の活性レベルを測定したところ、線維芽細胞におけるCPT・とCPT・の活性レベルは、これまでの報告とほぼ同程度であり、β酸化系酵素の活性レベルについては、これまでの報告よりやや低値であった。リンパ芽球では、線維芽細胞に比して、ミトコンドリア脂肪酸酸化系酵素の活性レベルは全般に高値であった。日本人のライ症候群3例、ライ様症候群6例、ALTE3例について脂肪酸酸化系酵素の活性レベルを検討したところ、CPT・活性が低レベルのものとCPT・活性が低レベルのものが、それぞれ2症例ずつ存在した。なお、脂肪酸β酸化系酵素の活性レベルに異常は認められなかった。CPT活性が低レベルの症例は1症例を除き、いずれもライ症候群で死亡した同胞を家族歴にもつライ様症侯群であった。本研究により、ライ症候群、ライ様症候群の原因として、CPT・活性とCPT・活性低下の関与が強く示唆された。
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●慢性誤嚥が発症に関与した小児急性呼吸窮迫症侯群の気管支肺胞洗浄液所見の検討
清水直樹 平野清美 高梨潤一 杉田克生 新美仁男 千葉大学医学部小児科学講座
嚥下協調障害・胃食道逆流による慢性誤嚥を呈する患者群では、軽微な気道感染から急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)への進展を経験することも少なくないが、その病態は充分に解明されていない。慢性誤嚥が小児ARDSの発症に関与している病態を明確にすることを目的として、気管支肺胞洗浄液(bronchoalveo1ar lavage fluid:BALF)を用いた検討を行った。慢性誤嚥が基礎にある症例では、BALF分画における好中球比率の変遷は通常のARDSと同様であったが、マクロファージの比率は発症初期からBALF中に増加しており、さらに0il red O染色にて脂肪貧食像を認めた。この様な症例では、末梢気道のレベルで肺胞マクロファージによる活発な脂肪貧食が行われ、マクロファージの活性化が惹起されていると推察された。 BALF中マクロファージの脂肪貧食像は、慢性誤嚥による肺傷害の病態解明に有用と考えられた。
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●125I標識ヒト型モノクローナル抗体4G12のin vitroおよびin vivo における反応特異性と生体内分布に関する研究
松原宏昌 千葉大学医学部外科学第二講座
腫瘍特異的なモノクローナル抗体による放射免疫診断や治療などの臨床応用を検討するために、マウス由来の抗体よりも免疫原性の低いいヒト型モノクローナル抗体4G12 (human IgM)を用いて腫瘍特異性や生体内分布を明らかにした。4G12抗体は谷口らが作成し扁平上皮癌に特異性が高いと報告したヒト型抗体で、酵素抗体法により食道扁平上皮癌組織切片を免疫染色すると94.8%が陽性であり、他組織では胃低分化腺癌と大腸癌の一部を除きすべて陰性であった。また、クロラミン丁法で標識した125I-4G12抗体でce1I binding assayを行うと扁平上皮癌株化細胞に選択的に反応し、コントロール細胞(Chang's liver ce11)と比較すると4.3倍の放射活性を有し標識後も十分な抗体活性を認めた。生体内分布では、食道癌教室継代株CME1を皮下に移植したヌードマウス(Crj:CD-1(ICR)nu/nu)に125I−4G12抗体を尾静脈より注入(1.7MBq/body)して経時的に腫瘍および各臓器別の放射活性(cpm/g)を測定すると、腫瘍/血液比は投与後上昇して120時間後に最高4.24±0.19(mean±SD)、さらに腫瘍/筋肉比では120時間後に最高83.43±8.53と、4G12抗体の腫瘍への集積を示した。そこで、腫瘍を皮下に移植したヌードマウスの全身シンチグラムを行うと、移植された腫瘤が120時間後に明敏に描出された。また、コントロールとして非特異性Human IgM (Cappel社)を同様に用いた場合の120時間後の腫瘍/血液比は1.30±0.35、腫瘍/筋肉比は0.60±0.06で腫瘍への集積を示さず、シンチグラムでも腫瘤は描出されなかった。以上より、ヒト型モノクローナル抗体4G12は食道扁平上皮癌に集積性を認め、さらにヒトIgMで免疫原性が低いこともあり、食道癌の診断や治療に応用し得ると思われた。
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●ヒト食道癌の発生進展過程におけるp53遺伝子変異の検出に関する検討
遠藤正人 千葉大学医学部外科学第二講座
ヒト大腸癌においては腺腫から癌へと段階的に進展していくという多段階発癌、いわゆるadenoma−carcinoma sequenceが知られているが、食道癌においては癌の発生と進展に伴う遺伝子の変化に関する報告は少なく定見はない。今回、p53遺伝子の点突然変異に着目し、食道癌ならびに異形成上皮(dysplasia)においてp53遺伝子の点突然変異の検出を試み、食道癌において癌抑制遺伝子p53の変異が食道癌の発生ならびに進展のどの過程で起きているかを明らかにすることを目的として検討を行った。異形成上皮の9例中1例(11.1%)の2病変、また食道癌24例中13例(54.2%)にPCR−SSCP法にてp53遺伝子の点突然変異が検出されたが、dysp1asiaでは9例中1例(11.1%)、stage 0-1では3例中2例(66.7%)、stage・では9例中5例(55.6%)、stage ・では12例中6例(50.0%)であり、組織学的進行度とp53遺伝子変異の頻度の間に相関関係はなく、dysplasia、また早期であっても比較的高頻度にp53遺伝子変異は検出された。また異形成上皮1例の2病変からは、それぞれ異なるp53遺伝子の点突然変異が検出され、食道癌発生母地としての異形成上皮の意義が示された。以上のごとく、p53遺伝子変異は食道癌においては癌発生の1ate eventではなく、dysp1asia, 上皮内癌といったpreinvasive cancerでその変異が検出されたことより、p53遺伝子変異は食道癌発生の初期に起こりうることが示された。
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