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千葉医学雑誌

千葉医学雑誌一覧
 
千葉医学 75 (1) :1-55, 1999

総説
ポリコーム群による転写制御のメカニズム
 古関明彦

結核症状の現状
 山岸文雄
 
原著
ヘルパーT細胞サブセット特異的情報伝達における転写因子AP-1の検討
 遠藤秀治

アンギオテンシノーゲン遺伝子(M235T, T174M) およびβ3アドレナリンレセプター遺伝子(Trp64Arg)の遺伝子多型と高血圧症との関連性
 諏訪園 靖 大久保靖司 小林悦子 能川浩二 城戸照彦

尿路結石形成におけるヒト腸管内シュウ酸分解菌の意義
 武井一城

症例
皮膚症状を伴わない抗けいれん剤過敏性症候群
 上野征夫 新井健三 滝 潤一郎 大塚正史 菊地宏久 横川美樹 山田伸夫 福島一也 遠藤康夫

話題
Bockus賞について
 奥田邦雄

海外だより
ニューヨーク留学生活
 中澤 健

学会
第18回千葉県胆膵研究会

編集後記

 
   
  ポリコーム群による転写制御のメカニズム
古関明彦 千葉大学大学院医学研究科発生生物学部門


ショウジョウバエ・ポリコーム群は、ホメオボックス遺伝子群の空間的な発現ドメインの維持に寄与する遺伝子群として同定されてきた。ポリコーム遺伝子産物は巨大なタンパク複合体を染色体上に形成してその領域をヘテロクロマチン化することにより、ホメオボックス遺伝子の発現抑制状態を安定に維持するだけでなく、染色体の高次構造を介した様々な転写制御のメカニズムに寄与していることが明らかにされてきた。脊椎動物においても、ポリコーム群遺伝子産物は、ホメオボックス遺伝子の発現コントロールのみならず、細胞増殖や細胞死のコントロールやゲノム刷り込みなど様々な現象に寄与することが示されつつある。
 
   
  ヘルパーT細胞サブセット特異的情報伝達における転写因子AP-1の検討
遠藤秀治  千葉大学医学部皮膚科学講座


マウスCD4 陽性ヘルパーT細胞は産生するサイトカインの違いによりTh1とTh2サブセットに分類される。Th1とTh2細胞における異なるサイトカイン産生の機構を明らかにするため、これら細胞における転写因子AP-1について検討した。標準的AP-1結合部位を含有するプローブを用いて、T細胞クローンの核抽出液をゲルシフト法にて解析した。Th1細胞クローンのHDK-1とD1.1細胞は移動度の異なる明瞭な2本のバンドを呈した。Th2細胞クローンのD10. G4.1とCDC25細胞では早い移動度を呈するバンドに一致するバンドのみを明らかに認めた。各種抗Jun/Fos抗体によるスーパーシフトにより、早い移動度と遅い移動度のパンドは各々Jun/Fos、Jun/Junファミリーの複合体であると示唆された。PMAとA23187で刺激したTh2細胞クローンではTh1細胞クローンよりも核抽出液中のJunBとc-Fosが多いことをウスタンブロッティング法で示した。また上記刺激によりD10. G4.1ではHDK-1よりもc-FosのmRNA発現の増加をみとめた。以上の結果からTh1とTh2細胞におけるAP-1の構成成分の違いが、これらの細胞における異なるサイトカイン産生機構に関与している可能性が示唆された。
 
   
  アンギオテンシノーゲン遺伝子(M235T, T174M) およびβ3アドレナリンレセプター遺伝子(Trp64Arg)の遺伝子多型と高血圧症との関連性
諏訪園 靖 大久保靖司 小林悦子 能川浩二 城戸照彦1)  千葉大学医学部衛生学講座 1)金沢大学医学部保健学科地域看護学


目常診療において最も多く遭遇するといわれている高血圧症のうち、90%以上は原因不明の本態性高血圧症である。本態性高血圧の発症には肥満、食塩の過剰摂取、喫煙等の宿主側の因子が関与することが、疫学研究で明らかにされた。近年は分子生物学の発展に伴い、従来から“体質”と呼ばれてきた高血圧の遺伝的要因の解明が試行され、血圧調整には多遺伝子が関与していると考えられている。そこで、本研究では関連遺伝子多型の組み合せで“体質”を評価できないかを検討した。すなわち、AGT遺伝子(M235TおよびT174M)の多型、ACE遺伝子のI/D多型およぴβ3-アドレナリン受容体遺伝子(Trp64Arg)の多型の組み合わせを高血圧症の日本人について検討した。対象集団は高血圧者130人、正常血圧者96人である。高血圧者は現在投薬治療中の人および収縮期血圧が160mmHg以上か拡張期血圧が95mmHg以上の人とした。正常血圧者は治療を受けたことがなく、収縮期血圧が140mmHg以下で拡張期血圧が90mmHg以下の人とした。4種全ての遺伝子多型は単独では高血圧者と正常血圧者間で出現頻度に有意差は認められなかった。一方、組み合わせ頻度で観察すると、正常血圧者に比べて、高血圧者にはAGT遺伝子(M235T)がTT型で、かつβ3-アドレナリン受容体遺伝子(Trp64Arg)がTT型の人が有意に少なかった(P=0.011)。高血圧症の危険因子である性、年齢および肥満度(BMI)も組み込んで、多重ロジステックモデルで解析すると、AGT遺伝子(M235T)がTT型で、かつβ3-アドレナリン受容体遺伝子(Trp64Arg)がTT型である組み合わせは、その他の組み合わせに比べて有意の負の危険因子であり(P=0.022)、オッズ比は0.521と算出された。これらの結果より、AGT遺伝子(M235T)がTT型で、かつβ3-アドレナリン受容体遺伝子(Trp64Arg)がTT型である遺伝子多型の組み合わせは、他の危険因子を考慮に入れても、高血圧症と関連していることが示唆された。
 
   
  尿路結石形成におけるヒト腸管内シュウ酸分解菌の意義
武井一城 千葉大学医学部泌尿器科学講座


尿路結石の約8割を占めるシュウ酸カルシウム結石の再発に関連する因子としては、尿中シュウ酸が最も重要であることがわかってきた。したがって、尿中シュウ酸を減少させることが尿路結石の再発を抑えることにつながると推測されるが、そのひとつの方法として、食事中のシュウ酸を減少させることが考えられる。また、摂取されたシュウ酸が腸内で分解されれぱ、吸収されるシュウ酸が減少することが予想される。まず、ヒト糞便中にシュウ酸分解活性があるかどうかを検討した。シュウ酸を含んだ液体培地で糞便を嫌気培養することで、培地中のシュウ酸が減少することを確認した。これにより、糞便中にシュウ酸分解活性があることが証明された。さらに、炭素源がシュウ酸のみである培地で糞便を継代培養して、シュウ酸分解菌を分離、同定した。これは、腸内細菌叢を構成する細菌のひとつである Eubacterium lentum のうちの一株であると同定された。シュウ酸カルシウム結石患者と健常人とでの糞便中のシュウ酸分解活性の比較では、結石患者にシュウ酸分解活性のない例が有意に多かった。腸管内のシュウ酸分解菌は食物中に含まれるシュウ酸を分解することにより、シュウ酸代謝に関与していると考えられた。
 
   
  皮膚症状を伴わない抗けいれん剤過敏性症候群
上野征夫 新井健三 滝 潤一郎 大塚正史 菊地宏久 横川美樹 山田伸夫 福島一也 遠藤康夫 本庄総合病院内科


 抗痙攣剤過敏症候群anticonvulsant hypersensitivity syndrome は、熱発、皮疹、リンパ節腫脹を伴なう稀な症候群で、発症頻度は1,000名から10,000名に1人位と推定される。患者はしばしば重篤となり、ことに肝障害をきたした場合、致死率は18%から40%と高率である。本症候群はジフェニルヒダイトインによるものがまず報告されたが、その後カルバマゼピン、フェノバルビタール投与によっても、同様の症候群が起こることが報告された。治療は本症候群に気付き、薬剤をすみやかに中止することである。我々は17歳の女性で、原因不明の脳内出血で入院し、痙攣予防のためジフェニルヒダントイン投与を受けた患者に本症候群が発症した例を経験した。薬剤開始約1週間後に、著名な熱発、頸部リンパ節腫脹、肝機能異常が出現し、患者は急速に疲弊した。当初、伝染性単核症など感染症を疑ったが、臨床的に否定的で、症状が入院後に起り、また脳内出血との関連が病因的に同一に説明できないことから、ジフェニルヒダントインによる過敏症を疑い薬剤を中止したところ、症状は劇的に改善した。本症候群は、薬剤過敏を示唆する皮疹の出現によってまず疑われることが多いが、本症例では経過中皮疹の出現は認められず、そのような場合でも抗痙攣剤服用患者に熱発、リンパ節腫脹が出現した例では、本症候群を念頭に入れておく必要がある。
 
   
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