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千葉医学 77 (5) :301-381, 2001

総説
心肥大形成および心臓発生の分子機序
 小室一成
 
展望
中枢性循環・呼吸調節に関与する神経伝達物質:遺伝子改変マウスを用いた研究
 桑木共之

原著
冠動脈のリモデリングパターンと冠血流因子との関係についての検討
 長橋達郎 高田博之 吉崎 彰 櫻井和弘 鈴木建則 増田善昭

不安定狭心症患者におけるマクロファージコロニー刺激因子 (M-CSF) の検討
 中村精岳 豊崎哲也 斉藤俊弘 増田善昭

事象関連脳電位による黙読時の母国語, 外国語単語認知に関与する脳の機能局在解析
 阿不拉 地里夏提 中島祥夫 下山一郎

症例
生体部分肝移植で救命しえた肝性昏睡V度の亜急性型劇症肝炎の 1 例
 小林 進 落合武徳 他

らいぶらりい
Hepatobiliary Diseases
 落合武徳

研究報告書
平成12年度長谷川加齢医学奨学生研究報告書
 
学会
第1020回千葉医学会例会・第18回神経内科教室例会
第1024回千葉医学会例会・第18回千葉精神科集談会

編集後記

 
   
  心肥大形成および心臓発生の分子機序
小室一成  千葉大学大学院医学研究院先端応用医学講座循環病態医科学


心不全発症の機序を知るには,心肥大発生の機序を理解することが重要である。一種の機械的刺激である血行力学的負荷が心肥 大形成の主要な刺激である。機械的刺激により心肥大が形成される機序を明らかにするために,我々は伸縮自在のシリコン ゴムで培養皿を作り,その上に培養したラットの新生仔心筋細胞を伸展した。心筋細胞を伸展したところ,種々のリン酸化 酵素が活性化され,特異的遺伝子の発現が誘導され,蛋白質の合成が亢進した。この過程においてアンジオテンシンUやエ ンドセリンなどの血管作動物質が重要な役割をしていた。最近,機械的刺激を受容し,生化学的シグナルに変換する“機械 的刺激受容体”の実体もわかってきた。心不全の治療法として遺伝子治療や細胞移植治療は有望である。これらの新しい治 療法を可能とするには,心臓の発生,心筋細胞分化に関する理解が必要である。我々は心臓の発生に必須な転写因子として ホメオボックス遺伝子Csxを単離した。Csxは胎生早期より心臓の予定中胚葉領域に発現する。Csxを欠失したマウスの心臓は 発生が途中で止まり,胎生9.5日で致死となる。ジンクフィンガーモチーフを持つ転写因子GATA-4と会合することにより, Csxは心筋細胞分化を強力に推進する。Csxの変異は心房中隔欠損症,心室中隔欠損症,エプスタイン奇形,房室ブロックな ど多くの心疾患の原因となることも明らかとなってきた。
 
   
  冠動脈のリモデリングパターンと冠血流因子との関係についての検討
長橋達郎 高田博之 吉崎 彰 櫻井和弘 鈴木建則 増田善昭1)  (財)東京都保健医療公社 多摩南部地域病院循環器科
1)千葉大学医学部内科学第三講座


【目的】冠動脈のリモデリングパターンと冠動脈の機能的因子である冠血流反応性との関係を検討すること。【方法】冠狭心症26例を対象とし,Dopplerguide-wireにて冠血流波形を記録し,ATPを用いて冠予備能を測定した。その後IVUSにて病変および対照部の全血管面積,内腔面積,プラーク面積を計測した。内腔面積の最小部を病変部(L)とし,その遠位部(D)および近位部(P)10mm以内で最も正常に近い部位を対照部として,全血管面積が,L>105%×Pをcompensatoryenlargement(E群),L<95%×Dをcoronaryshrinkage(S群),±5%以内でL=P/L=Dをnoremodeling(N群)とした。群間でIVUS上の狭窄度に差を認めなかった。【結果】冠平均冠血流速度(APV),冠予備能(CFR),拡張期収縮期血流速比(DSVR),時間流速積分値(TVI)は各々,E群,N群,S群の順で低くなる傾向にあった。【結論】冠リモデリングパターンは冠血流因子のうちCFR,APV,DSVR,TVIと関係していた。冠血流反応性は,冠動脈リモデリング現象のメカニズムに関与している因子のひとつと考えられた。
 
   
  不安定狭心症患者におけるマクロファージコロニー刺激因子 (M-CSF) の検討
中村精岳 豊崎哲也1) 斉藤俊弘2) 増田善昭2)  千葉県循環器病センター循環器科 1)千葉大学医学部附属肺癌研究施設病理研究部門
2)千葉大学医学部内科学第三講座


不安定狭心症の病態発現には粥腫の破綻および血栓形成が関与する。粥腫の破綻に続き血管壁に進入した血液はマクロファージに貪食される。一方マクロファージの遊走,活性化に関与するM-CSFはリンパ球,単球だけでなく,血管内皮細胞や平滑筋細胞からも産生される。本研究では不安定狭心症患者のM-CSF値を検討した。対象はUAP群:不安定狭心症患者20例,EAP群:安定労作性狭心症患者20例,NOR群:健康成人15例で末梢静脈より採血を行ないELISA法を用いてM-CSF値を検討した。なおUAP群では入院時と7日後も測定し,さらにBraunwald分類によりIIIB群とIIBおよびIB群に分けて検討した。M-CSF値はUAP群695±240pg/ml,EAP群322±69pg/ml,NOR群229±44pg/mlであり,UAP群のM-CSF値はEAP群およびNOR群に比し有意に高かった(P<0.0001)。UAP群の入院時M-CSF値は7日後(469±126pg/ml)に比し有意に高かった(P<0.0005)。さらに入院時UAP群のうち,Braunwald分類IIIB群(801±268pg/ml)のM-CSF値はIIBおよびIB群(566±114pg/ml)に比し有意に高かった(P<0.05)。狭心症の不安定期にはM-CSF値は高値を示すと考えられる。このことと,狭心症の不安定期に起こる血管壁へのマクロファージの遊走との間に関連があると推測された。なお,血清M-CSF値は狭心症の病勢を示す指標となりえる可能性が示唆された。
 
   
  ラット凍結保存大動脈移植モデルにおける同種移植組織の構造変化
塚越芳久 増田政久 ピアス洋子 中島伸之 千葉大学医学部外科学第一講座


【目的】臨床応用も行われている凍結保存同種組織であるが,移植後の生体内での変化については不明な点が多い。今回我々はラット凍結保存同種大動脈移植モデルにおいて電子顕微鏡・免疫染色法を用いて検討を行った。 【方法】Brown-NorweyラットをDonorとして胸部下行大動脈を採取し,グラフト内皮の剥奪処理群と保存群に分けて,プログラムフリーザーを用いて凍結し一週間保存した後解凍し,RecipientのWisterラットの腹部大動脈に移植。これを1w・2w・4w・3Mで採取し,走査型及び透過型電子顕微鏡と免疫染色法を用いて比較検討した。【結果】Donor内皮を保存した群と内皮を剥脱処理した群を比較すると,Donor内皮細胞保存群では,除去群に比べて移植後1・2週において有意に内皮細胞の新生が遅延していた。また,今回の大動脈グラフトでは移植後4週以上のほとんどに石灰化や弾性板層の断裂を認め,移植後3ヶ月以上ではグラフト中央部で高率に瘤化を来していたが,瘤化の発生率は両群間に有意差を認めなかった。【結論】Donor内皮細胞保存群では,有意な内皮細胞新生の遅延を認め,Donor内皮細胞の存在は内膜新生を遅らせると考えられた。また,凍結保存同種大動脈移植片は,移植後長期になると石灰化や弾性板層の断裂,瘤化等のような変化を来すことにより長期成績が不良となる可能性がある。
 
   
  事象関連脳電位による黙読時の母国語, 外国語単語認知に関与する脳の機能局在解析
阿不拉 地里夏提 中島祥夫 下山一郎 千葉大学大学院医学研究院神経情報統合生理学講座


母国語,外国語の認知過程における脳機能局在差異を明らかにすることを目的に,TVモニターに呈示された,1)母国語として 漢字単語を外国語として英単語を黙読したとき,2)2桁のアラビア数字を母国語と外国語で黙読したときの21チャンネル事象関連脳 電位を記録し,解析した。1)での被験者は右利き健常成人9名(日本人5名,中国人4名),2)では右利き健常成人10名(日本人6名,ウイグル人4名)であった。その結果,単語認知及び数字認知の両タスクにおいて,刺激後200-300msの間で陰性電位が見られ,その振幅は外国語認知で母国語認知より大きかった。漢字と英単語を黙読したとき,漢字では両側側頭葉及び中心部に陰性電位活動が見られ,英語では左側側頭葉により大きい陰性電位活動が観察された。アラビヤ数字を母国語と外国語で黙読したときは全ての被験者で両側側頭葉及び後頭葉に陰性電位が観察された。これらの結果から,単語及び数字認知時の脳活動は母国語よりも外国語処理で強く,視覚呈示後200-300msで認知処理が最大となると考えられた。また,母国語(漢字と数字)の認知過程には右脳のイメージ処理と左脳の言語処理が同時に関わり,外国語(英語)の認知過程では従来指摘されている言語中枢との関連で左半球が優位であることが示唆された。
 
   
  生体部分肝移植で救命しえた肝性昏睡V度の亜急性型劇症肝炎の 1 例
小林 進  落合武徳他  千葉大学大学院医学研究院先端応用外科学


今回,肝性昏睡V度の状態で生体部分肝移植を施行し救命しえた亜急性型劇症肝炎(病因不明)の1例を経験したので報告する。症 例(レシピエント)は12歳,男児であり,感冒薬服用後,約7日後に黄疸出現(肝炎発症),その約11日後に脳症出現(亜急性型劇症肝炎)し,手術前日(脳症出現後4日)には,肝性昏睡X度,脳波もほとんど平坦化した状態であった。 入院時の血液生化学データはWBC, 5600 ; RBC,5.65x106;Hb,17.3g/dl;Ht,51.5%;Plt,144x103;GOT,2839U/L;GPT,3307U/L;T.Bil,23.2mg/dl;D.Bil,16.5mg/dl;PT,36%;HPT,19%;NH3,10μg/dl,肝炎ウイルスマーカーは全て陰性であった。術前アンモニアは287μg/dlまで上昇し,手術前日には痛覚反応が消失し,肝性昏睡X度となった。血液型はB型,入院時の身長は163.0cm,体重は45.5kgであり,標準肝容積(SLV)=1033.5cm3であった。ドナーは母親であり,血液型はB型(一致),肝右葉の移植となった。術後の意識レベルの回復は極めて良好であり,術翌日には開眼が見られ,第4病日には気管内挿管チューブの抜管が可能であった。高度の肝性昏睡を示す急性肝不全症例に対する肝移植後は移植そのものがうまくいっても脳死や脳萎縮等の重度の神経学的後遺症を残すことが知られているが,今回の症例は神経学的後遺症を全く残さず,術後79病日で退院となった。
 
   
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