千葉医学会 The Chiba Medical Society
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千葉医学雑誌

千葉医学雑誌一覧
 
千葉医学 81 (2) :47-95, 2004

原著
3次元超音波内視鏡検査は食道癌における放射線化学療法の治療効果の評価に有用
 星野敏彦 島田英昭 宮崎信一 平山信夫 青木泰斗 岡住慎一 松原久裕 鍋谷圭宏 神津照雄 宇野 隆 伊東久夫 落合武徳 (和文・PDF
インターネット医療の成立の環境と条件
 福永 亘 里村洋一 (英文・PDF
 
話題
病理診断の質の向上と均質化: 本邦の現状
 石倉 浩 (和文・PDF
電子ジャーナルをめぐる話題
 尾城孝一 行方美知子 阿蘓品治夫 五十嵐裕二 瀧口正樹 (和文・PDF

学会
第1099回千葉医学会例会・第27回千葉大学循環病態医科学・循環器内科懇話会 (和文・PDF

雑報
医師の英語−−目的の設定と目標の数値化
 関根郁夫 (和文・PDF

編集後記 (和文・PDF
第82回千葉医学会総会案内
第81回千葉医学会学術大会・第42回日医生涯教育講座 (和文・PDF)

 
   
  3次元超音波内視鏡検査は食道癌における放射線化学療法の治療効果の評価に有用.
1)星野敏彦 1)島田英昭 1)宮崎信一 1)平山信夫 1)青木泰斗 1)岡住慎一 1)松原久裕 1)鍋谷圭宏 2)神津照雄 3)宇野 隆 3)伊東久夫 1)落合武徳
千葉大学大学院医学研究院 1)先端応用外科学.3)放射線腫瘍学.2)千葉大学医学部附属病院光学医療診療部


  2次元の超音波内視鏡検査では,放射線化学療法後の腫瘍体積を正確に測定することは難しい。そこで,我々は2次元ならびに3次元の超音波内視鏡検査により放射線化学療法の前後の食道癌腫瘍体積を比較しその意義を検討した。11例に対して術前放射線化学療法を施行し手術前後に超音波内視鏡にて評価した。治療は,40Gyの放射線照射と5FU (500r/u/day) とシスプラチン(10r/u/day)の5日間持続投与である。治療後に画像検査ならびに内視鏡検査にて治療効果を検討した。病理学的治療効果は,切除標本にて検討した。3次元超音波内視鏡では,病理学的効果を正確に評価できた。3次元超音波内視鏡検査でCRと評価した3例では,3例とも病理学的に腫瘍残存を認めず,再発なく生存している。腫瘍体積が不変であった6例では病理学的効果はわずかであった。これらの結果から3次元超音波内視鏡検査は放射線化学療法後の治療効果や予後を予測するために有用であると示唆される。とが明らかになってきた。一連のシグナル伝達が同定され,分子ターゲットが得られた現在,中枢神経再生に向けた治療応用を視野にいれた研究が始まっている。  
 
   
  インターネット医療の成立の環境と条件
福永 亘 里村洋一  千葉大学大学院医学研究科医療情報学


【はじめに】我が国の医療提供体制は,質と効率を目指し改革が進められている。一般人が医療に関する情報にアクセスし,自分のかかえる健康上の問題について知識を得たり,医療機関等を自ら選択する環境を整備することも改革の要素である。患者と医師との間の「情報の非対称性」を少なくして,医療を医師と患者の共同作業にする必要があるからである。インターネットの普及は,このために役立つだろうか,インターネットを利用している人々は現実をどのように評価し,どのように期待しているか,これら的確に捉え,医療におけるインターネット役割と,その発展の条件を見極める必要がある。  

【目的】インターネットで行われる情報交換に関して,一般人と医師達の間に求めるものの差があるだろうか。両者は情報の安全にどの程度危険を感じているだろか。また,健康情報の発信をしている医療機関や医師達はどのような問題に遭遇しているだろうか,このような疑問に応えるために一般人と医療機関(医師)の双方にアンケート調査を行って,明らかにしようとした。  

【方法】病院への来診者1,200名と一般社会人600名を対象にインターネット医療への期待や不安に関するアンケート調査を行った。また,インターネット上で情報提供している医師達1,000人にネット上でアンケートを行い,医師側の意識を調査した。また,インターネットで情報提供をしている医師達100名に運用上の問題に関して,eメールを使ったアンケート調査を行った。  

【結果】一般人と医師のインターネットを利用した医療サービスの期待については,病気や医療機関に関すること,健康管理・疾病予防に関することなどであり原則的には同じ方向を向いていることがわかった。一般人は大多数がインターネットでの情報取得に安全性に対する不安よりも利点を感じており,利用経験者の方にその傾向が強かった。医師のインターネットに対する期待は,患者情報よりはむしろ医療技術,学術情報に向かっているが,患者層へ情報発信にも積極的であることが示された。インターネットを介して個別の情報通信で医療サービスを行っている医師達は,的確な診断をするための情報不足に問題があることを指摘している。  

【結論】インターネット医療を普及させるためには,情報の質と安全を確保するために,通信環境の整備,個人情報保護のガイドライン整備,医療情報の質の評価メカニズム,医療上の規制緩和などをすすめなければならない。
 
   
  電子ジャーナルをめぐる話題
尾城孝一1) 行方美知子2) 阿蘓品治夫1) 五十嵐裕二1,2) 瀧口正樹3)
千葉大学附属図書館1),千葉大学附属図書館亥鼻分館2),千葉大学大学院医学研究院遺伝子生化学3)


 1990年代後半のインターネットの爆発的な拡大と電子出版技術の普及を背景として,学術雑誌の電子ジャーナル(オンライン・ジャーナル)化は急速に進展した。現在では,主要な学術雑誌のほとんどはオンライン化され,電子ジャーナルは研究活動を支える不可欠の情報資源とみなされるようになった。  本稿の前半では,まず電子ジャーナルの特徴及び利点について確認する。続いて,千葉大学における電子ジャーナルの整備の現状,予算確保の方策,及び全国的図書館共同体(コンソーシアム)を通じた購入交渉について述べる。さらに,図書館を中心とした利用支援・利用促進活動とその効果について紹介する。  後半では,論文の執筆者,編集者,読者としての研究者から見た電子ジャーナルの現状について概観する。特に,現在注目を集めつつある無制限利用可能(オープンアクセス)オンライン・ジャーナルがもたらすであろうインパクトについて展望する。
 
   
  医師の英語−−目的の設定と目標の数値化
関根郁夫
国立がんセンター中央病院 肺内科


  英語なんかできなくてもよい−ウソ
英語はできなければならない−ウソ

40歳過ぎたら英語は上達しない−ウソ
40歳過ぎからでも英語は上達する−ウソ

英語は留学しないと上達しない−ウソ
英語は留学すると上達する−ウソ

受験英語は役に立たない−ウソ
受験英語は役に立つ−ウソ

英語を読むときには辞書を引いてはいけない−ウソ
英語を読むときには辞書を引かなければならない−ウソ

日本人同士で英語のことを議論しても意味がない−ウソ
日本人同士で英語のことを議論するのは意味がある−ウソ

英語についてのウソは枚挙にいとまがない
すべて一定の条件下で成立することであって,一般論としては成立しない−ホント
むしろその条件を理解することの方が大切

 多くの自然科学分野において,最新情報の収集と発信を英語で行ってきたにも拘わらず,従来,ネイティブ・スピーカーでも語学専門家でもない我々が,英語や英語教育について意見をいうのは憚れる状況にあった。しかし,インターネット・グローバリゼーションの進行に伴い,英語によるコミュニケーションの必要性とそのための教育の重要性が,英語専門家を超えて多くの人たちによって盛んに議論されるようになった[1-4]。医学分野も例外ではなく,医学研究・医療技術開発の急速な国際化に対応するために,医師の英語教育についても同様に様々な検討が必要である[5]。日本人医師が英語を使う状況は様々であるが,情報収集,発信を1)日本語のみで行う: 2)英語と日本語で行う; 3)英語のみで行う,の3つに分類できる。このうち,1)に相当する英語を使う必要のない医師と共に,3)に相当する海外の施設に職を得て活躍している医師も本稿の対象としない。それは,そのような医師に要求される英語力は著者の能力を大きく超えていることと,そのような英語力を得るためには,学生時代の英語教育から改善する必要があることによる。

英語の勉強を進めるには,具体的な目的の設定が重要で,それによってどこに集中して勉強しどこで手を抜けばよいかがはっきりする[3]。上記2)に相当する医師にとって,英語論文を読むことと書くこと,外国の学会で口演をしたり聞いたりすること,それに外国人研究者と研究テーマについて討論することが,最低限要求されることである。さらに,英語を初学者として勉強を始める日本人にとって,その到達点を定めることも重要である。そこで,本来「語学」には様々な要素があるため,「語学力」を定義することには無理があるが,英語を勉強する上での目標を,可能な限り具体的な内容と数字をあげて示すことを試みた。

1.英語の分類[3]  
専門英語: 専門の仕事で要求される用語や表現で,学会などの公式の場で話される英語,専門の論文や教科書で使われる英語など。  
正式英語: ある程度の知的水準を持つ人が正式の場で使う英語で,テレビやラジオのニュースで使われる英語,一般の新聞や雑誌に使われる英語など。  
非正式英語: 日常生活の非公式の場で使われる英語で,スラングや方言を含む。パーティーでの会話,友人との会話,映画で使われる英語など。  
このように英語をおおざっぱに分類することによって,どのような英語を勉強したらよいかがはっきりする。多くの医師にとって,専門英語と正式英語を習得することが到達目標となるだろう。従って,スラングを勉強する必要はないし,映画を教材に使うことは,「ローマの休日」のように主人公が常に正式英語をしゃべっている場合を除いて,適切でない[3,6,7]。また,ネイティブ・スピーカーであっても,専門英語については素人であることが多く,それが英会話教室に通っても英語が使えるようにならない理由の一つとなっている[3]。

2.英語の総勉強時間  
英語を支障なく使えるようになるまでの勉強時間: 4000時間[3]  
英語習得までの時間: 2000-3000時間[8]  
アメリカ人学習者が集中コースで上級レベルに達するまでに必要な学習時間[9]  
週30時間,44週間(1320時間): アラビア語,中国語,日本語,ロシア語  
週30時間,32週間(960時間): インドネシア語,マレーシア語  
週30時間,24週間(720時間): オランダ語,スウェーデン語,スワヒリ語  
週30時間,20週間(600時間): フランス語,ドイツ語,スペイン語  
ストップウォッチを使って測った英語勉強時間: 13年間で5000時間[8]  
語学を習得するには1000時間単位の勉強が必要であるということは,各報告で一致している。野口悠紀雄氏によれば,日本人は,高校卒業までに自習時間も含めておよそ2000-3000時間くらい英語を勉強しているので,あと1000-2000時間も勉強すれば,英語が使えるようになるはずだということである[3]。

3.リーディング  
総読書頁数: 1日1冊で計2000冊[10]→1冊100-200頁として20-40万頁  
定年までに読む医学論文数2-3万[11]→1論文5-10頁として10-30万頁,500-700報/年,10-15報/週  
楽しくスラスラ読めるまでに必要な多読量: 100万語[12]→論文数にして300-500報  
年間多読量: 50-500万語[12]→論文数にして150-2500報/年  
週間多読量: 40頁(1.2万語)[12]→論文数にして4-6報/週  
アメリカの大学生に与えられる課題: 一週間に論文200-300頁[4]→論文数にして25-60報/週  
夏休みの2ヶ月間: 300頁の本を30冊[7]  
多読時間: 毎日2時間5年間(3500時間)[7]  
英語圏の教科書: 小学校,中学校,高等学校,大学合わせて16年間分[7]  
ペーパーバック: 1週間に1冊[13]  
英語の本: 1ヶ月に2-3冊[13]
 成人ネイティブ・スピーカーの平均リーディング速度: 250-350単語/分[3]  
日本人の平均リーディング速度: 100単語/分[3]  
国際基督教大新入生の速読速度: 120-125単語/分[14]  
アメリカ人の大学卒の一般人の速読速度: 500-1000単語/分[3,14]  
アメリカ人ジャーナリストの速読速度: 1500単語/分[14]  
速読速度: 50頁/時間,1頁/1分[10]  
4時間で英文ポスター97演題,ポスター1枚2.5分[15]  
どのくらいの英文を読めば良いかについて,英語学者と医学研究者という全く違った分野の専門家が,ほぼ同じ数字を挙げていることは興味深い。すなわち,一流の医学者は定年までに10万頁単位の英文を読むということである[10,11]。これは論文数にして10-15報/週に相当するが,アメリカの大学生は,その約2-4倍の論文を読まされていることになる。  日本人の英文リーディング速度は100-120単語/分であるが,ネイティブ・スピーカーはその約3倍の速度で読む。速読とは,通常の読み方とは異なり,必要な情報を入手できればそれでよしとする読み方で,誰でも忙しい時に新聞を読む場合には無意識のうちに行っていることである。ネイティブ・スピーカーの速読速度は500-1500単語/分で,医学論文ならば1報2-4分で読むということになるが,これは要領を覚えれば日本人でも可能な数値と思われる[10]。米国医師資格試験(United States Medical Licensing Examination; USMLE)に合格した日本人医師の話では,まともに読んでいたら時間がなくなるほど問題文が長く,速読の重要性を痛感したということである[16]。

4.ライティング  
職業タイピストのタイプ速度: 50単語/分[3]  
10分で400単語,1日に手紙30通,1年間に手紙1万通[10]  
論文数: 教授で100-150報,同助教授・講師で50-100報,同助手1-50報(化学分野)[17]; 共著者も含めて1350報[18]; 年齢と同じ数[19]; 10年間で773報[20]; 2週間で1報[21]; 4日で1報[22]; 症例報告なら一晩で1報[23]; 総説なら1ヶ月で1報[24]; 1年に2-5報(化学論文)[17]; 1年に2報[25]; 大学院なら1年に6報[26]; 1-2ヶ月で1報[27]; 1年に9報[28]  
日本人医師が書く英文で最も多いのは医学論文であろう。国立がんセンターでは,1年間に2報は書くようにと言われるが,最近1年間に9報書いたチーフレジデントがいた[28]。1つの論文をどのくらいの期間で仕上げるかは,どこからをその期間にふくめるか(研究開始からか,英文ワープロを立ち上げてからか)と1日のうちで論文執筆に費やせる時間よって大きく変わってくるが,おおざっぱに言って,症例報告なら1週間以内,原著論文ならば1-2週間,総説ならば1ヶ月以内,というのを努力目標にしてはどうだろう。

5.リスニング  
赤ちゃんが言葉を喋りだすまでに必要な時間: 2000時間[29]  
日本人小学校低学年生がアメリカに移住して英語が分かるようになるまでの時間: 6ヶ月間[29]→1日8時間,週5日英語を聞くとして,1000時間  
1日3時間,1年間に1000時間[30]  
往復6時間ながら族[14]  
CNNヘッドライン・ニュース毎日2時間3ヶ月[14]→180時間  
日本人が英語を理解する速度: 75単語/分[7]  
英語を理解する速度の目標: 200単語/分[7]  
諸家の意見をまとめると,英語を聞き取れるようになるまでには1000時間単位のリスニングが必要であるということで,これに同意される方は多いであろう。問題はこれが必要条件であるだけでなく,十分条件になっているかどうかである。野口悠紀雄氏は,片道1時間,往復2時間の通勤時間中ずっと英語を聞いていると,2年間で大体1000時間聞いたことになり,ほぼ完全に聞き取れるようになると言っている[3]。  
次項で示すとおり,ネイティブ・スピーカーが公式の場で話す速度はおよそ120-140単語/分程度であり,またスラングが使われることはほとんど無い。このような正式英語が不自由なく聞き取れるようになれば,耳から入ってくる情報が大幅に増えて,どんなにいいことだろう。CNNヘッドライン・ニュースを毎日2時間ずつみると,3ヶ月で1-2割聞き取れるようになるという体験談がある[4]。

6.スピーキング  
BBCのアナウンサーのスピーキング速度: 130-150単語/分[14]  
アメリカのアナウンサー養成におけるスピーキング速度: 135-180単語/分[3,14]  
演説のスピーキング速度: 120-140単語/分[3]  
講義のスピーキング速度: 140-160単語/分[3]  
通常の会話におけるスピーキング速度: 180単語/分[3]  
猛烈に速い会話におけるスピーキング速度: 220-230単語/分[3]  
TOEICのスピーキング速度: 140単語/分[3]  
日本人科学者の学会発表におけるスピーキング速度: 100単語以下/分[31]  
演説: 1000回/14年間[4]; 招待講演48回/10年間[32]  
招待講演: 教授で6-15回,助教授・講師で0-10回,助手で0-5回(化学分野)[33]  
発音: Humming bird方式で30-70時間[7]  
会話: 週4時間,3ヶ月間の学習で,15分の会話が出来るようになる[9]  
ネイティブ・スピーカーが公式の場で話す速度はおよそ120-140単語/分程度であるが,発音が苦手な日本人が英語をしゃべる場合には,もっと遅い方が他人には分かりやすく,100単語以下/分がよいと言われている[31]。英語達人のコメントに共通していることは,「力がついてから」英語を使うという姿勢ではなく,「力をつけるために」英語を使う機会を多くする努力をしているということである[13]。海外の学会に演題を出すのもいいし,国内のシンポジウムでも,他の演者が外国人であるならば,自分もそれに合わせて英語で発表するくらいしてみてもいいと思う。

7.語彙数
 
ボイス・オブ・アメリカのニュース番組で使用している語彙数: 1500語[3]  
日本人高校生が学習する語彙数,英検2級必要語彙数: 5000語[3]  
英検1級必要語彙数: 1万−1万5000語[3]  
ネイティブ・スピーカーの持つ語彙数: 5万語[3]  
専門職にあるネイティブ・スピーカーが頻繁に使う語彙数: 5000語[3]  
雑誌Timeを読むのに必要な語彙数: 5万語[34]  
雑誌Timeの1つの分野を読むのに必要な語彙数: 1−2万語[34]  
医学薬学英文活用辞典の見出し語数: 1万2千語[35]  
対照カルテ用語の見出し語数: 9000語[36]  
英語上級者と中級者の語彙力の差: 1000語[8]  
必要な英単語数: 8000語[7]  
基礎語彙数: 2500-3000語[13]  
医療,経済,教育というような,ある1つの分野で使われている語彙数は1-2万語あり,ネイティブ・スピーカーが持っている語彙数は5万語であるが,実際にネイティブ・スピーカーが頻繁に使う語彙数は,日常生活で1500語,学会などで話す場合を含めて5千語程度である。日本人で英語を使う場合に必要な基礎語彙数はおよそ2500語程度と思われる。日本人の英語上級者と中級者の語彙力の差が1000語ということは,例えば環境,政治など,1つの分野で専門用語を100語ずつ覚えて,それを10分野で行えば,英語上級者になれるということである。多読中に意味が分からない単語に出会した時,頻繁に出てくる単語のみ辞書を引いて意味を確認するという英語上級者の勉強法は,それを支持するものと考える[13]。従って,医学分野に限った話をするならば,おそらく専門用語を含めて3000語もあれば十分で,特に頻繁に使われる単語を100語くらい覚えればそれでことが足りるであろう。しかし,他の分野について話をするならば,おそらくその分野毎にさらに専門用語をある程度知る必要がある。

8.留学の英語  
とにかく海外に行ってみる  
 →海外生活の経験,観光に必要な英語力: 英検4級  
研究施設を見学する  
 →研究者と個別の討論に必要な英語力: 英検2級  
研究を行う  
 →口頭発表,論文執筆に必要な英語力: 英検2級〜準1級,TOEIC 730点≦  
現地で安定した職を得る  
 →研究指導,普通の会話に必要な英語力: 英検1級≦,TOEIC 910点≦  
留学するときに大切なのは,留学の到達目標を決めることで,それに応じて必要な英語力が決まってくる。多くの医師が,英検2級レベルの語学力は持っているので,留学して研究することぐらいは可能である。それに比べて,現地で安定した職を得ることは遙かに難しい。例えば実験手技を指導する場合,相手は性別,年齢(世代),国籍,宗教,文化背景,教養,受けてきた教育,専門などが,自分とは異なっているかもしれなく,そのような違いをすべて言葉によるコミュニケーションで克服していかねばならない。また,現地人から人間として信頼されるためには,人間関係の潤滑油として日常のごく普通の会話をこなす必要がある。 9.「仕事で使える」英語力3つのレベル[37]

1)実用レベル  
試験: 英検準1級, TOEFL 550 (Computer Basedでは213),TOEIC 730程度以上  
聴解能力: 面と向かってのゆっくりとした会話は,かなり理解できるが,CNNなどのニュースは,ほとんど理解できず。  
語彙力: 7000語程度

2)上級レベル  
試験: 英検1級, TOEFL 610 (Computer Basedでは253),TOEIC 910程度以上  
聴解能力: CNNなどのニュースなどは,半分以上理解できる(気がする)。  
語彙力: 10000語-15000語程度。新聞・雑誌を辞書なしで読み,概ね理解することはできるが,語彙力の不足を感ずる。 3)最上級レベル  

検定試験の類では計れず。  
大学卒以上の教養のあるネイティブスピーカーの英語能力と同じとは行かないまでも,かなりそれに近づく。  
英語の新聞・雑誌を,日本語のものを読むのとほぼ同じ程度の気軽さで読める。  
聴解能力: CNNなどのニュースは,特殊な専門用語を除いては,ほぼすべて理解できる。  
語彙力:20000語以上  
これは,Vital Japanという,世界を相手にするビジネス・政策プロフェッショナルを対象にした活動を行っている団体の代表小田康之さんのホームページから抜粋したもので,専門分野が異なるものの,大いに参考になる。  

以上をまとめると,「医師の英語」は,目的,目標に応じ,勉強時間と量の関数に従って上達するということである。我々は医学の専門家であって,英語研究者や教育者ではないし,英語そのものを商売にしている者でもないが,英語教育に一般論は存在せず,各自が自分のやり方を探していかねばならぬ以上,同じような立場の人たちで英語について議論することは有意義であろう。これを一つのきっかけとして,様々な意見が出てくれば,本稿の目的は達せられたと考えている。

謝  辞  本稿を書くに当たり,以下の各氏から貴重な意見を頂きました。この場を借りて深謝します: 高野利実,新明祐子,矢部優子(国立がんセンター中央病院),岡本 勇(熊本大学),豊岡伸一(岡山大学),砂長則明(群馬大学),佐藤光夫(University of Texas, Southwestern Medical Center)。

文  献
1)文部科学省. 「英語が使える日本人」の育成のための戦略構想の策定について.英語教育改革に関する懇談会 2002年7月12日.Available at: http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/020/sesaku/020702.htm.
2)長谷川芳典.「英語が使える日本人」再考.岡山大学文学部紀要 2002; 38: 41-76.
3)野口悠紀雄.「超」英語法. 東京: 講談社,2004.
4)岸本周平.中年英語組−プリンストン大学のにわか教授.集英社新書.東京: 集英社,2000.
5)日本医学英語教育学会.Available at: http://www. medicalview.co.jp/eiken/index.shtml.
6)中村収三.他人が勝手に話しているのは聞けなくてよい.化学 2003; 58: 44-45.
7)遠藤尚雄.英語は独学に限る.東京: 角川書店,2001.
8)本多義則.伸ばしたい! 英語力.東京: 技術評論社,2004.
9)白井恭弘.外国語学習に成功する人,しない人.岩波科学ライブラリー100.東京: 岩波書店,2004.
10)松本 亨.英語の新しい学び方.講談社現代新書52,東京: 講談社,1965.
11)長岡 滋.日本喀痰研究所所長,私信,1991.
12)SSS英語学習法研究会.Available at: http://www. seg.co.jp/sss/.
13)竹内 理.より良い外国語学習法を求めて.東京: 松柏社,2003.
14)小川芳男.話せるだけが英語じゃない.東京: サイマル出版会,1981.
15)The 35th Annual Meeting of American Society of Clinical Oncology, 1999.
16)豊岡伸一.岡山大学腫瘍・胸部外科,私信,2004.
17)平林 央.研究者が考える “研究者の条件” とは. 化学 1995; 50: 587-592.
18)杉村 隆.国立がんセンター名誉総長,私信,1997.
19)小倉 勤.国立がんセンター研究所支所癌治療開発部,私信,1995.
20)Anderson C. Authorship. Writer’s cramp. Nature 1992; 355: 101.
21)西野 卓.千葉大学麻酔科,私信,1993.
22)佐々木康綱.国立がんセンター東病院化学療法科,私信,1993.
23)下里幸雄.国立がんセンター中央病院検査部,私信,1996.
24)岡田周一.国立がんセンター中央病院肝胆膵内科,私信,2000.
25)新海 哲.国立がんセンター東病院内視鏡部,私信,1994.
26)大原 毅.東大第3外科,私信,1994.
27)John D. Minna.Hammon Cancer Center, UT Southwestern Medical Center at Dallas, 私信, 2003.
28)National Cancer Center Hospital. Annual Report. 2003.
29)徳永哲士.英語が上達しないのにはワケがある! −これが「英語3段とび吸収法」だ.東京: サンマーク出版,2001.
30)ヒヤリング・マラソン.Available at: http:// home.alc.co.jp/db/owa/sp_item_detail?p_sec_cd= 11&p_item_cd=H4
31)中村輝太郎.英語口頭発表のすべて国際社会での活躍をめざす科学者・技術者のために.東京: 丸善,1996.
32)高上洋一.国立がんセンター中央病院幹細胞移植科,私信,1998.
33)平林 央.招待講演は評価の重要な指標か. 化学 1995; 50: 593-594.
34)薬袋善郎.TIMEを読むための10のステップ.東京: 研究社,1999.
35)石岡卓二.医学薬学英文活用辞典.東京: アトムス,2004.
36)金芳堂.和・英・独・ラ対照カルテ用語改訂版.京都: 金芳堂,1990.
37)小田康之.私の英語勉強法.Available at: http://www.geo.jpweb.net/gaikokugo/english/howto. htm.

(無断転載を禁ず:千葉医学会)
 
   
  〔特別講演〕かびと共に40年−皮膚科医から基礎研究者へ
宮治 誠 千葉大学名誉教授


 千葉大学医学部医学進学課程に入学した時,卒業後は開業し一市民としてのんびり人生を過ごしたいとの希望をもっていました。しかし卒業時の謝恩会の席で当時バドミントン部の顧問であられた整形外科の故鈴木次郎教授が私の左肩をポンと叩いて「宮治君,運動部の連中は余り勉強しないが卒業後一生懸命勉強し立派な業績をあげた人も多いよ」と言われたのです。その夜真剣に考え「よし,大学院に進学し4年間だけでも死に物狂いで勉強してやろう」と決心したのです。では大学院で何を研究したら良いのか,丁度ワトソン,クリックの分子生物学の勃興期で級友の多くは分子生物学の専攻を希望していました。しかし私は人が集まっている研究分野には拒絶反応を起こすのです。あれもダメ,これもダメと思案していく内に基礎研究として重要で,かつ医学分野の人がやっていない「かびの分野」があることに気が付いたのです。  しかし,かびの研究を本格的におこなっている教室はありません。それで水虫,タムシを扱っている皮膚科の大学院に入学したのです。しかし師匠がいませんので3ヶ月後「腐敗研究所」に出向しました。ここでも独学で研究を始めたのですが,2年経ってもテーマが決まりません。このテーマだと決めてもう一度調べてみるともう20年前,30年前に報告されていたのです。それが3年経つと10年か15年に縮まり,独自のテーマにたどり着いたのは大学院を卒業して2年経過していました。一方大学院3年を過ぎると皮膚科から優秀な後輩達が私の研究室に出向してきました。また大学側も貴重な人材だと少しは認めてくれたようで,まだ若いのに教授にしていただき,あれやこれやで研究所を止めるに止められなくなってしまったのです。  研究は後輩の西村先生とパートを組んで推進していきました。彼女がひらめた瞬間私がそれを展開していくというスタイルで成功していったのです。その例の1つが「黒色酵母の系統発生」の研究です。これは当事世界的に議論されていた黒色酵母の分生子(胞子)形成機序を理論的に解析し,結論づけたもので(西村・宮治理論),菌学の分野で画期的な成果でした。  しかし事は順調に推移していったばかりではありません。1987年研究所に存亡の危機が訪れます。当事の中曽根総理は全国の研究組織の見直しを行い,不必要な研究機関を廃止することに決め,我々の研究所もその対象となってしまったのです。大学人というものはこうなるとまったく頼りになりません。ほとんどの教官は直ぐ諦め,身の振り方を考えはじめました。しかし私にはかび研究の芽をつんではいけないという使命感がありました。それで若輩ではありましたが教授会で「何が何でも私は残る」と啖呵を切ったのです。文部省も大学本部も予算の期限が迫っているので早くかたずけたいのですが私は絶対に引きませんでした。その間色々ありましたが最終的にかびの研究施設「真核微生物研究センター」を誕生させることが出来ました。スタッフも半分以上出ていってしまいましたが私には自信があったのです。丁度国際化の必要性が叫ばれ始めた頃で私はこの研究施設を「かびの国際的研究施設」にしてやろうと決めスタッフを積極的に海外に派遣しまた向こうの研究者を招聘し共同研究を推進していきました。それと同時に当時日本でほとんど行われていなかった国際シンポジウムを毎年開催したのです。これは大変なエネルギーを要求されましたが,事務官を含め職員一人一人に国際性という自覚をもたらしたと自負しています。またセンターのもう一つの目玉として世界的な規模での病原真菌の収集に努めました。かびは遺伝資源として極めて有用で,バイオの研究分野においてはその国が遺伝資源をどの位持っているかが一つの勝負になります。真菌医学研究センター(1997年に真核微生物研究センターから改組)が有利なのは私達が必死で世界中から収集した自前の真菌(遺伝資源)を使って自由に研究出来ることです。現在真菌医学研究センターは世界の真菌研究の中心の一つになっており,日本の微生物保存機関の中心的存在になっています。  しかし順風満帆とはいかぬもので定年間際にまたまた深刻な問題が起こってきました。それは大学の「独立行政法人化」です。法人化されるとセンターの様な小さい組織は直ぐ波に洗われてしまいます。とにかく行動を起こさなければならないとセンター長と相談し千葉大発ベンチャー企業第一号,(株)ファーストラボラトリーズ,を設立しました。この企業が発展し少しでも真菌医学研究センターの発展に寄与出来れば,と念じる今日この頃です。

〔招待講演〕肺真菌症の原因菌とその病原性について
亀井克彦 千葉大学真菌医学研究センター


 環境内は真菌に満ちあふれている。何気なく吸い込んでいる空気中にもおおむね103-104個/程度は浮遊している。条件が良ければ,濃度は劇的に増加する。これ以外にも,真菌は口腔内,腸管内,腟内,皮膚などに大量に常在しており,まさしく人間は真菌と一緒に生活していることがわかる。  内臓真菌症(深在性真菌症)に限定して考えると,わが国における真菌症の原因菌は,アスペルギルス(Aspergillus fumigatusなど),カンジダ(Candida albicansなど),クリプトコッカス(Cryptococcus neoformansなど)に代表され,これに新興・再興真菌症として,弱毒菌に属する菌種(接合菌,Pseudallescheria boydiiなど)や,強毒菌である輸入真菌症の原因菌種(Coccidioides immitis,Histoplasma capsulatumなど)を数えることができる。そして輸入真菌症の原因菌を除いた多くの菌種が,日常的に空気中に浮遊している。 これほど大量の真菌を吸い込みながらも,発病する人は限られている。これは,肺が空気中に大量の異物が存在することを前提に設計されている器官であり,病原性微生物を含む異物に対してマクロファージや好中球を中心としたきわめて強力な防御能力を持っていることによる。真菌が感染を成立させるためには,何らかの方法でこの機構を突破しなければならない。この突破に用いられる菌側の要素を「病原因子」と総称している。病原因子を解明することにより,真菌症の診断や治療が前進するものと考えられ,さまざまな研究が行われてきた。 アスペルギルス症は,わが国でもっとも重要かつ深刻な真菌症である。その原因となるのは70%あまりがAspergillus fumigatusである。A. fumigatusの病原因子としては,protease, rodlet, phospholipaseなどが検討されてきたものの,gene destruptionを含むさまざまな実験でもあきらかな病原因子としての機能を示すに至らず,A. fumigatusの病原因子は長い間謎とされてきた。 この1,2年,A. fumigatusの産生するgliotoxin が急速に注目を浴びてきた。Gliotoxinはmycotoxinの1種の低分子アルカロイドである。その存在は以前から知られていたが,産生速度がきわめて遅いため,A. fumigatusの病原因子としては無視されつづけてきた。しかし,近年の研究で,肺内条件に近似した高酸素条件下では急速に産生されることが明らかとなった。これと前後してアスペルギルス症の患者血清中には高濃度のgliotoxoinが存在することが報告された。この gliotoxinは,しばしばホストの白血球機能を喪失させるほど高濃度であり,病原因子として機能していることが強く示唆される。現在これらの知見に基づいて,gliotoxin検出によるアスペルギルス症の診断法や,gliotoxinを標的とした治療法の開発が進んでいる。いずれも数年前には考えられなかったことである。これらは近年の劇的な研究手法の進歩によりもたらされたわけではない。実際に認められた現象をすなおに再検討した結果が端緒の一つだったといってもよい。  これまで人類の歴史では長年の先人の努力によりさまざまな発見がなされ,それなりの蓄積が行われてきたが,自然界や生命科学において,われわれが持っている知識は未だきわめて乏しい。しかし,科学技術の研究の渦中に身を置くと,すべてが解明されたという錯覚に陥りがちである。今「正しい」とされている事柄の中にも,諸君が一人前になる頃には「誤り」として書き換えられる事項が基礎医学,臨床医学を問わず数多く出てくるであろう。EBMの “evidence” とは,実は常に移り変わってゆくものなのである。自然に対して傲慢にならず,常に疑問を持ち,優れた臨床医,研究者として育っていくことを期待したい。
 
 
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