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千葉医学雑誌


千葉医学雑誌一覧
  千葉医学 88 (1) :1-72, 2012 
原著
脊髄障害性疼痛に対する顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の治療効果
 加藤 啓 山崎正志 大河昭彦 佐久間 毅 高橋 宏 橋本光宏 林 浩一 川辺純子
 藤由崇之 古矢丈雄 山内友規  門田 領 宮下智大 萬納寺誓人 染谷幸男 鎌田尊人
 池田 修 橋本将行  井上雅俊 花岡英紀 国府田正雄 高橋和久(和文・PDF)

末期腎不全予防対策: メタボリックシンドローム腎症の提唱
― 千葉県立高校生検尿システム20年間の解析を基礎にして―

 土田弘基(和文・PDF)

第三回千葉医学会賞
基礎医学部門:
NKT細胞を標的としたがん免疫細胞治療の開発研究
 本橋新一郎(和文・PDF)

第三回千葉医学会奨励賞
インスリンシグナルと心老化
 清水逸平 南野 徹 小林欣夫(和文・PDF)
全身性エリテマトーデスにおけるステロイド性大腿骨頭壊死の病態解明と予後予測
 中村順一(和文・PDF)
神経−血管ガイダンス分子を標的とした血管新生制御機構の解明と新たな血管再生治療の開発
 森谷純治(和文・PDF)
プロテオミクスの手法によるラミンAの機能解析
― 早老症であるHutchinson-Gilford Progeria Syndromeにおける動脈硬化性疾患の原因解明に向けて ―

 木下大輔(和文・PDF)
 
海外だより
UCSD留学記
  山内友規 山内かづ代(和文・PDF)

学会
第1214回千葉医学会例会・第28回神経内科教室例会(和文・PDF
第1219回千葉医学会例会・第28回千葉精神科集談会(和文・PDF
第1222回千葉医学会例会・平成22年度細胞治療内科学例会(和文・PDF

OAP要旨
Delayed auditory feedbackと近赤外線スペクトロコピーを用いた脳活動計測のプレリミナリー研究
 山下弘毅 笠置泰史 中澤 健 下山一郎(和文・PDF)

編集後記(和文・PDF


 
   
  脊髄障害性疼痛に対する顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の治療効果
 加藤 啓 山崎正志 大河昭彦 佐久間 毅 高橋 宏 橋本光宏 林 浩一 川辺純子
 藤由崇之 古矢丈雄 山内友規  門田 領 宮下智大 萬納寺誓人 染谷幸男 鎌田尊人
 池田 修 橋本将行  井上雅俊 花岡英紀1)  国府田正雄 高橋和久
千葉大学大学院医学研究院整形外科学
1) 千葉大学医学部附属病院臨床試験部


 脊髄障害性疼痛を有する13例を対象として,顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を用いた神経保護療法の臨床試験を施行した。対象症例は,脊髄症の急性増悪と関連する疼痛を認めた6例(脊髄症急性増悪群)および脊髄症の後遺症と考えられる疼痛を認めた7例(脊髄症後遺症群)の二群に分けられた。G-CSFを5μg/kg/日×5日間(1例),10μg/kg/日×5日間(11例),10μg/kg/日×3日間(1例)の投与量・期間で点滴静注投与し,投与前後での疼痛の変化をVisual analogue scale (VAS)にて評価した。11例で投与後に疼痛が軽減し,2例では完全に消失した。疼痛軽減効果は全例,投与開始から1週間以内で認められた。脊髄症後遺症群では無効例が2例存在した。VASは,脊髄症急性増悪群で投与前平均63.3oから投与後1週間で平均25.0o(P<0.05)に,脊髄症後遺症群で投与前平均67.1oから投与後1週間で平均44.3o(P<0.05)に減少した。投与後6ヵ月間の観察期間中に7例で疼痛軽減効果の減弱が見られた。効果の減弱は投与後3ヵ月時に4例,6ヵ月時に3例で認められた。今回の検討から,G-CSFが脊髄障害性疼痛に対して疼痛軽減効果を有することが示唆された。

 
   
  末期腎不全予防対策:メタボリックシンドローム腎症の提唱
― 千葉県立高校生検尿システム20年間の解析を基礎にして―
土田弘基
社会医療法人社団千葉県勤労者医療協会 慢性血管合併症研究所
ちば県民保健予防財団 腎臓疾患判定委員会


 一般成人の慢性維持透析を要する末期腎不全患者が増加し続けている。その背景には,世界的に激増しているメタボリックシンドロームがある。メタボリックシンドロームの最上流にある肥満は高血圧・脂質異常・高血糖をドミノ式に伴って,心血管病や慢性腎臓病の動脈硬化性疾患を誘発させる。この病態の流れを持ち,腎障害を伴った代表的7症例を具体的に提示する。これらの症例の共通点は,臨床像ではメタボリックシンドロームの定義を満たし,かつ腎病理像では腎内動脈硬化病変を示すことである。これらの基準を満たす症例をメタボリックシンドローム腎症と呼称することを提唱する。従来,糖尿病性腎症・良性腎硬化症・肥満関連糸球体症と診断されてきた多くの症例は,メタボリックシンドローム腎症と置き換えることが出来る。メタボリックシンドローム腎症と診断することの利点は,病態の理解,適正な治療,適切な予防対策が出来ることである。過去20年間,我々が実施してきた思春期後期である千葉県立高校生の検尿システムはメタボリックシンドローム腎症の早期発見と早期治療に有用である。このシステムを活用することによって,増加し続ける末期腎不全症例を大幅に減少させ得ることが期待出来る。
 なお,2011年10月に,日本肥満学会が発表する「肥満症診断基準ガイドライン2011」(新診断基準)に追加された「肥満関連腎臓病」は本論文で提唱している「メタボリックシンドローム腎症」とほぼ同一のものと考える。
 
   
  〔第二回千葉医学会賞:基礎医学部門〕
NKT細胞を標的としたがん免疫細胞治療の開発研究
本橋新一郎
千葉大学大学院医学研究院免疫細胞医学・免疫発生学・呼吸器病態外科学


  NKT細胞は抗原提示細胞上のCD1d分子に提示された外来性抗原である糖脂質,α-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)を認識し活性化する。活性化したNKT細胞は癌転移モデルにおいて強力な抗腫瘍効果を 示すことから,ヒト担癌状態においても内在性NKT細胞の活性化により強力な抗腫瘍効果を発揮することが期待される。これらのことからNKT細胞を標的とした免疫細胞治療の臨床応用を目指した臨床試験 を施行している。現在までに原発性非小細胞肺癌に対して施行した内在性のNKT細胞活性化を目指すα-GalCerパルス樹状細胞療法の安全性,NKT細胞特異的免疫反応および臨床効果につき概説する。
 
   
  〔第三回千葉医学会奨励賞〕
インスリンシグナルと心老化
清水逸平 南野 徹 小林欣夫
千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学


 心臓のインスリンシグナルと心不全との関連は未だ明らかではない。我々は,持続的な圧負荷は過剰 なインスリンシグナルの活性化により心不全の発症・増悪を促進することを明らかにした。圧負荷モデ ルでは心不全慢性期において,全身のインスリン抵抗性が惹起され,血漿インスリン濃度の高値を示し た。肝臓ではインスリン抵抗性が惹起されていたが,心臓では対照的にインスリンシグナルは著明に活 性化していた。その機序として心筋組織の伸展刺激によるインスリン受容体の活性化が重要であること がわかった。本研究によって,高血糖を改善するためにインスリンを用いることは,心臓に圧負荷が生 じている状況では心機能に悪影響を与える可能性のあることが明らかとなった。これらの結果は,高イ ンスリン血症が心イベントと関連することを報告した臨床研究の結果とも合致するものであり,心不全 の治療において,臓器間のインスリンシグナルの調節を標的とした治療は不可欠であると考えられる。
 
   
  〔第三回千葉医学会奨励賞〕
神経−血管ガイダンス分子を標的とした血管新生制御機構の解明と新たな血管再生治療の開発
森谷純治
千葉大学医学部附属病院循環器内科


 虚血性心血管疾患に対する血管再生治療は現在ヒトへと臨床応用されているが,糖尿病患者においてその効果が低いなどの問題点がある。我々はこれまでに,糖尿病状態ではセマフォリンなどの神経−血管ガイダンス分子の発現が亢進していること,そしてこれらの分子を抑制することによって血管再生過程が回復することを明らかとした。本分子による血管新生制御機構を解明することは,新たな血管再生治療の開発につながると考えられる。
 
   
  〔第三回千葉医学会奨励賞〕
プロテオミクスの手法によるラミンAの機能解析
― 早老症であるHutchinson-Gilford Progeria Syndromeにおける動脈硬化性疾患の原因解明に向けて ―
木下大輔
千葉大学大医学部5年


 老化や死は,生物にとって避けることのできないものであり,長年に亘って老化に関する研究や議論が続けられている。早老症は,若い頃から老化の生理学的特徴を示すものであり,Hutchinson-Gilford progeria syndrome(HGPS)が促進的な老化過程と類似していることから,同疾患は老化研究のモデルとして注目を浴びている[1]。  HGPSは平均寿命13歳,主な死因は心筋梗塞等の動脈硬化性疾患である。本疾患は,核膜の裏打ち構造の構成タンパク質であるラミンAが部分欠損することで生じる常染色体優性遺伝病である[2]。このように,疾患の原因遺伝子および変異はわかっているものの,その発症機構は解明されておらず,特に,タンパク質レベルでの詳細な研究は未着手であった。  そこで,最新のプロテオミクスの手法を用いて,原因遺伝子である,野生型および変異型ラミンA相互作用タンパク質の網羅的な解析を行った。その結果,野生型ラミンAに対する相互作用が新規であり,かつ変異型ラミンAにおいて相互作用の消失するタンパク質が同定された。また,変異型ラミンAの導入に伴い,老化した血管の細胞において新たに同定された分子をノックダウンすることで,その細胞死を防ぐことができた。さらに,変異型ラミンA導入に伴う細胞の形質の確認を行う過程で非常に興味深い結果が得られた。すなわち,HGPS患者の主な死因は動脈硬化性疾患であることから,血管の細胞に変異型ラミンAを導入したところ,通常とは異なるHGPSに特徴的な動脈硬化性疾患を実験上,再現できたのである。  今回得られた新たな知見は,HGPSの病態に迫るものであると考えられるので,ここに報告したい。
 
   
  Delayed auditory feedbackと近赤外線スペクトロコピーを用いた脳活動計測のプレリミナリー研究
山下弘毅 笠置泰史1)  中澤 健2)  下山一郎1)
千葉大学大学院医学薬学府先端生命科学
1) 千葉大学フロンティアメディカル工学研究開発センター
2) 千葉大学大学院医学研究院認知行動生理学


 Delayed auditory feedbackタスク実行時の両側前頭葉における脳活動を近赤外線スペクトロコピー(functional near-infrared light spectroscopy; fNIRS)を用いて計測した。10名の聴覚異常の既往のない健常者が被験者として本研究に参加した。被験者は,インナーイヤーフォンにて自身の声を聴きながら日本語版のイソップ物語を音読した。音読時に被験者が聴いている自身の声に遅れがないnon-delayタスクと,機械的に200ms遅れた自身の声を聴きながら音読しているdelayタスクの2通りのタスクを,それぞれ5回,交互に実行した。タスク実行時の額中央部の皮下血流の総ヘモグロビン値(total Hb),両側前頭葉のtotal Hbおよび酸化ヘモグロビン値(Oxy-Hb)の変化について検討した。また,音読時の音声を録音し,音読時間についても検討した。平均音読時間は,non-delayタスク実行時と比較して,delayタスク実行時に有意に延長した。額の皮下およびfNIRSのHbの変化を見ると,額の皮下血流のtotal Hbの変化と両側前頭葉total Hbの変化の相関は低いことが示され,fNIRSにより計測された両側前頭葉のHbの変化は皮下血流の影響を受けていないと考えられた。non-delayタスクとdelayタスク実行時での両側前頭前皮質のOxy-Hbの変化の差は認められなかった。左前頭葉では,タスク実行前と比較してdelayタスク,non-delayタスク実行時にかかわらず音読時のOxy-Hbの有意な上昇が認められ,右前頭葉においてはOxy-Hbの上昇は認められたものの統計学的有意差は認められなかったことから,脳の左右における言語処理に関連する機能的な違いが反映された可能性が考えられた。
 
   
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