千葉医学会 The Chiba Medical Society
千葉大学 千葉大学大学院医学研究院・医学部→
千葉大学医学部附属病院→
千葉医学会 The Chiba Medical Society HOME 千葉医学会の紹介 お知らせ Chiba Medical Journal 千葉医学雑誌 医学雑誌関連情報


千葉医学雑誌

千葉医学雑誌一覧
 
千葉医学 87 (5) :181-236,2011

原著
森林浴を体験したリウマチ患者の血清ヒドロペルオキシド,MMP-3,尿中8-OHdG,唾液イムノグロブリンA量に関する調査
 菅谷 茂,綛谷珠美,紀 仲秋,郭 文智,宇田川晃一,野村 純,杉田克生,大田令子,鈴木信夫(英文・PDF/HTML
東日本地域の水道水と一級河川水の細胞毒性
 任 乾 姜 霞 陳 仕萍 吉田政高 佟 暁波 郭 文智 鈴木敏和 菅谷 茂 田中健史 喜多和子 鈴木信夫(英文・PDF/HTML
症例
ER型救急外来における外科症例の検討
 木下弘壽 中森知毅(和文・PDF
回腸原発の小児悪性リンパ腫による腸重積の一手術例
 藤城 健 黒田浩明 篠原靖志 牧野治文 千葉 聡 坂本昭雄 松原久裕(和文・PDF
第一回千葉医学会賞
 基礎医学部門: アレルギー発症を制御するTh2細胞の分化と機能維持のエピジェネティクス
 山下政克(和文・PDF
 臨床研究部門: p53依存性老化シグナルと生活習慣病
 南野 徹(和文・PDF
第一回千葉医学会 奨励賞
プロテオミクスを用いた神経免疫疾患  活動性マーカーの網羅的解析
 澤井 摂(和文・PDF
キネシン分子モーターの1分子顕微解析による神経変性メカニズムの解明
−遺伝性痙性対麻痺を引き起こす分子モーターの変異−

 川口憲治(和文・PDF
学会
第1217回千葉医学会例会・平成22年度第10回千葉大学大学院医学研究院 呼吸器病態外科学教室例会(和文・PDF
第1224回千葉医学会例会・第24回千葉泌尿器科同門会学術集会(和文・PDF
編集後記(和文・PDF
 
   
  森林浴を体験したリウマチ患者の血清ヒドロペルオキシド,MMP-3,尿中8-OHdG,唾液イムノグロブリンA量に関する調査
菅谷 茂1),綛谷珠美2),紀 仲秋1),郭 文智1),宇田川晃一3),野村 純4),杉田克生4),大田令子5),鈴木信夫1)
1)千葉大学大学院医学研究院環境影響生化学
2)千葉県森林研究センター
3)千葉大学医学部附属病院形成外科
4) 千葉大学教育学部養護教育学
5) 千葉リハビリテーションセンター


 「目的」森林浴はヒトの健康によいとされるが,その効能を生理・生化学的解析により明らかにした研究はほとんどない。本研究では,森林散策後の体内の酸化傷害物量のレベルを測定し,都市散策後のレベルと比較した。  リウマチ患者女性12名(48−62歳)および健常人女性11名(48−52歳)について,千葉市内で昼間90分間の散策を行った。その日のうちにバスで移動し,森林環境で宿泊後,翌日,森林環境で昼間1時間の散策を各人の生理活動能力に従い行った。  都市散策後と森林散策後を比較した結果,森林散策後の血清においては,1群のリウマチ患者でDiacron-Reactive Oxygen Metabolites (dROM)法により測定したヒドロペルオキシド量は減少し,尿中では,ELISA法により測定した8-OHdG量は増大した。また,リウマチ患者の唾液中では,ELISA法により測定したIgA量は,森林散策後に高くなった。ELISA法により測定したMMP-3量は森林散策後の方が都市散策後に比べ,低い値を示した。  以上より,森林浴は,体内での酸化ストレス度を抑制することが示唆された。また,免疫力ないし生理酵素機能の調節が示唆された。
 
   
  東日本地域の水道水と一級河川水の細胞毒性
任 乾1),#, 姜 霞1),#, 陳 仕萍1),吉田政高1),佟 暁波2),郭 文智1),鈴木敏和1,3),菅谷 茂1),田中健史1),喜多和子1),鈴木信夫1)
1)千葉大学大学院医学研究院環境影響生化学
2)承徳医学院基礎医学部生理学
3)和洋女子大学生活科学系人間栄養学
# Equally contributing authors


 都市家庭用水道水および東日本地域の一級河川の水を採取し,水中の有機化合物をOasis HLB 3 ccカラムに吸着させ,その後,濃縮した。水に含まれる濃縮化合物の細胞毒性効果を評価するため,ヒトRSa細胞を用いたMTT法を行った。超純水で処理した細胞の生存率を100%とした場合,水道水サンプルの細胞生存率は約80%〜100%であった。阿賀野川を除く17の河川水サンプルの細胞生存率は80%以上であった。また,多摩川と荒川の中下流域から得られた水サンプルは70%以下の生存率を示した。多摩川においては,4月と7月に採取されたサンプルで,江戸川においては8月と10月に得られたサンプルにおいて,特に水質悪化が認められた。培養ヒト細胞RSaを用い水サンプルの細胞毒性効果を調べることは,水道水や河川水中の様々な因子の生物学的影響を評価し,環境水の品質評価に応用することで,基準を統一することを可能とする包括的な手法である。
 
   
  ER型救急外来における外科症例の検討
木下弘壽 中森知毅
横浜労災病院 救急センター


 目的:ER型救急医が外科疾患に対して,適切にトリアージをおこなっているかを評価する。対象と方法:ER型救急医療を行う1施設において1年間の救急患者のうち消化器内科と外科患者を検索し,入院となった患者数,手術となった患者数,緊急手術(入院当日か翌日に手術)となった患者数を検索した。消化器内科入院となりながら緊急手術となった症例は,救急外来でのトリアージが適切でなかったとした場合どれくらいの頻度生じているかを検討した。結果:1年間の救急外来患者数は,外科で488例,消化器内科は,2,244例。救急外来を経て入院となった患者数は,外科で318例,消化器内科は,477例。このうち,手術となったのが外科で108例,消化器内科で47例。これら手術症例のうちで,緊急手術症例は,外科で86例,消化器内科で5例。この5症例を救急外来でのトリアージが不適切とした場合,外科と消化器内科救急外来受診患者数の0.18%をしめていた。5例のうちわけは,大腸癌イレウスが2例,絞扼性イレウス1例,卵管留膿症1例,壊死性大腸炎1例であった。症例検討では,すべての症例が救急外来でのトリアージが不適切なわけではなかったが緊急手術となりうる症例を救急医が認識しておくことは重要と思われる。
 
   
  回腸原発の小児悪性リンパ腫による腸重積の一手術例
藤城 健 黒田浩明1)  篠原靖志 牧野治文 千葉 聡 坂本昭雄 松原久裕2)
さんむ医療センター外科 1)さんむ医療センター小児外科 2)千葉大学大学院医学研究院先端応用外科学


 症例は3歳8か月の男児。前日からの間歇的腹痛を主訴に,2010年8月19日に当院小児科受診し超音波検査にて,腸重積を疑われ小児外科紹介となった。腸重積の診断で注腸整復を行うも整復できず緊急手術を施行。先進部となった回盲部に弾性硬の腫瘤性病変を触知し,腸間膜リンパ節の腫大も認め,悪性リンパ腫が疑われたため回盲部切除術を施行。術後にびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断され,化学療法の早期開始を目的に,7病日で小児血液腫瘍の臨床試験参加施設へ転院した。小児悪性リンパ腫は小児期悪性腫瘍の約7−8%を占め,その一部には腸重積で発症する症例も文献上散見される。2000−2010年の本邦文献報告による小児悪性リンパ腫の腸重積手術症例は32例あり,自験例を合わせた33例で検討を行った。腸重積発症時の平均年齢は7.9歳と特発性腸重積より高く,性差では男児27例女児6例と男児に多かった。病脳期間は,3日以内の急性発症例が5例認められた一方で,病脳期間の長い症例も多数認められ2週間未満3例,2か月未満7例,2か月以上5例であった。術前診断は困難であることが多く,半数以上が特発性の腸重積の診断で,何らかの器質的疾患を疑ったのが41%,悪性リンパ腫と診断されたのは2例のみで全体の7%と少数だった。術式は回盲部切除術がほとんどを占めていた。術後治療と予後に関しては,29例中28例で術後に化学療法を追加しており,予後については記載明瞭な8症例全例で無再発生存中という結果であった。以上から,術前や術中所見で悪性リンパ腫による腸重積が疑われた場合は,侵襲を最小限とし早期に化学療法を開始することが重要であると考えられた。
 
   
  〔第一回千葉医学会賞:基礎医学部門〕
アレルギー発症を制御するTh2細胞の分化と機能維持のエピジェネティクス
山下政克
(財)かずさDNA研究所ヒトゲノム研究部ゲノム医学研究室


 CD4陽性ヘルパーT(Th)細胞は免疫反応の司令塔とも言える細胞であり,産生するサイトカインの種類により,幾つかのサブセットに分類できます。Th細胞サブセットは,通常は互いにバランスを取りながら免疫反応を担っていますが,そのバランスが崩れてTh2細胞優位になった場合,アレルギー疾患が発症すると考えられています。このTh2細胞は,IL-4,IL-5やIL-13などのTh2サイトカインの産生を介してアレルギーの病態形成に関わっています。私たちは,このTh2細胞の分化や機能を制御することで,IgE産生や炎症部位への好酸球浸潤,気道過敏性亢進などのアレルギー反応の抑制が可能となり,アレルギー性疾患の根治療法を確立できると考えて,Th2細胞の分化誘導ならびに形質維持のメカニズムを解明する研究を行ってきました。その結果,Th2細胞の分化には,転写因子GATA3によるTh2サイトカイン遺伝子発現のエピジェネティックな変化が深く関わっていることを見出しました。また,アレルギーの慢性化のメカニズムとして,ヒストンメチル基転移酵素MLL1が,エピジェネティックな制御により,GATA3発現を維持し続けることが重要であることも示しました。さらに,MLL1の発現を低下させることで,アレルギー性気道炎症モデルの病態を改善できることも明らかにしました。現在は,これらの知見を基盤として,分子的解析に基づくアレルギー疾患の治療開発を目指して研究を継続しています。
 
   
  〔第一回千葉医学会賞:臨床研究部門〕
p53依存性老化シグナルと生活習慣病
南野 徹
千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学


 ほとんどの体細胞には分裂寿命があり,一定の回数分裂後,不可逆的な細胞周期停止状態,すなわち細胞老化に陥る。また,酸化ストレスなどによってDNA障害が生じると,分裂回数には依存せず,細胞老化がおこることもある。いずれの場合にも,p53の活性化が関与している。最近,このようなp53活性化に依存する細胞老化シグナルが,加齢に伴う様々な疾患の病態に関与していることが明らかとなってきた。そこで本稿では,老化分子としてのp53の役割について我々の研究成果を中心に議論したいと思う。
 
   
  〔第一回千葉医学会奨励賞〕
プロテオミクスを用いた神経免疫疾患活動性マーカーの網羅的解析
澤井 摂1, 2)
1) 千葉大学大学院医学研究院分子病態解析学
2) 千葉大学大学院医学研究院神経内科学


 ポストゲノム時代に入りプロテオ―ム解析が注目され,その技術を用いて様々な疾患における新規バイオマーカー探索が盛んに行われている。  本研究では多発性硬化症の疾患活動性を反映する血清マーカーを検出することを目的に,マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-TOF MS)によるプロテオーム解析を行った。  MALDI-TOF MSを用い,多発性硬化症31例と正常対照48例の血清中ペプチドプロファイルを解析し,存在量に差のある低分子ペプチドを検索した。次に正常対照と有意差のあったペプチドを対象に,多発性硬化症16例の再発時と寛解期の血清を比較した。  血清中の存在量に差のあるペプチドを,正常対照と多発性硬化症の比較で10個認めた。そのうち1つのペプチド(分子量1741Da)が,寛解期と比較し再発時に有意に高値であった。このペプチドはタンデム質量分析で,補体C4のα鎖上にある15個のアミノ酸からなるフラグメント(NGFKSHALQLNNRQI)と同定された。なお,血清中の補体C4値は再発期の多発性硬化症で正常対照と差がなかった。  MALDI-TOF MSを用いたプロテオーム解析は,これまで測定することができなかったペプチド領域を含めた生物学的マーカーの検出に有用であった。本研究で同定された補体C4のフラグメントは多発性硬化症の再発マーカーとなる可能性がある。
 
   
  〔第一回千葉医学会奨励賞〕
キネシン分子モーターの1分子顕微解析による神経変性メカニズムの解明
−遺伝性痙性対麻痺を引き起こす分子モーターの変異−
川口憲治
千葉大学大学院医学研究院神経生物学


 キネシン1は主に神経細胞内でATP加水分解エネルギーを利用し微小管のプラス端方向へ移動する分子モーターである。近年の1分子レベルの技術的進歩によりキネシン1の移動メカニズムは詳細に明らかになってきている。正常の状態の理解が進めば,遺伝子変異などにより分子モーターの機能不全が起こった時,その動きの変化のみでなく神経軸索全体に与える影響,またその対処(治療法)も考慮できる。実際臨床において遺伝性痙性対麻痺の一部はキネシン1のモータードメイン(KIF5A)の遺伝子変異により引き起こされることが分かっている。本稿ではキネシン1の微小管を移動するメカニズムについて,自らの研究成果も含めたこれまで得られた最新の知見を述べると共に,KIF5Aの変異が神経変性疾患を引き起こすメカニズムについて議論する。
 
   
  お問い合わせ e-mail : info@c-med.org  

Copyright (C) 2002 The Chiba Medical Society. All Rights Reserved.